研究課題/領域番号 |
26330308
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
松井 利一 群馬大学, 理工学府, 准教授 (20302458)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ヒューマンインターフェース / 最適行間隔 / 最適文字間隔 / 焦点調節誤差 / 焦点調節機構モデル / 瞬間提示 / 画像知覚 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,健常者と老眼者の焦点調節誤差特性の違いと両者の視知覚特性の違いの関係を実験的に明確化し,これを定量的にシミュレート可能な視覚系モデルに基づいて老眼者用の視覚インターフェース設計法を確立することにある. 1.健常者と老眼者の視知覚特性(見え方特性)の違いの明確化 健常者と老眼者の焦点調節誤差特性の違いが両者の視知覚特性に及ぼす影響を調べるため,最適行間隔と最適文字間隔の導出実験と瞬間提示画像知覚実験を行った.前者の実験では,日本語文書の行間隔と文字間隔を任意に設定し,インクジェットプリンタから出力する文書作成システムを構築し,健常者に対する最適行間隔と最適文字間隔をシェッフェの一対比較法を用いて導出した.その結果,我々の実験結果は従来結果と定性的には一致するが,定量的にはかなり異なることを明確化した.これは,従来結果の精度の悪さが原因と考えられる.一方後者の実験では,3つのドットが並んだ画像や誤差拡散画像を作成し,任意に設定した時間だけ表示する瞬間画像提示システムを構築し,健常者に対して提示時間と画像知覚の関係を導出した.実験結果では,提示画像の性質に依存して知覚時間が変化し,これが焦点調節機構の動特性によるものと考えられた. 2.焦点調節機構モデルを用いた最適行間隔の導出 我々は既に提示画像の性質に合わせて焦点調節誤差が適応的に変化する焦点調節機構モデルを開発しており,このモデルに文書画像を観測させることにより,健常者に対する最適行間隔を理論的に導出する手法を開発した.その結果,理論的に導出した最適行間隔が実測結果と良く一致することがわかり,最適行間隔に及ぼす焦点調節誤差の影響が理論的に議論できることを確認した.以上は,老眼者用の視覚モデルが完成すれば,健常者と老眼者の見え方の違いが理論的にシミュレート可能になることを意味する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)心理実験システムの構築 最適行間隔と最適文字間隔の導出実験では,日本語文書の行間隔と文字間隔を任意に設定可能な文書を作成する実験システムの開発に時間を要した.最終的には,MATLABとJavaスクリプトとphotoshopを組み合わせで実現する手法を開発した.これにより,行間隔や文字間隔をかなり精度良く設定することが可能になり,従来よりも精度の高い心理実験が可能になった.また,シェッフェの一対比較法を用いた心理実験を行ったが,被験者に対する教示方法に関しても試行錯誤を繰り返したため,健常者に対する実験は行えたが,老眼者に対する実験は次年度に繰り越す結果になった. 瞬間提示画像知覚実験では,任意に設定した時間だけ表示する瞬間画像提示システムを構築したが,提示画像の種類,大きさ,提示条件の決定に関して試行錯誤を繰り返したため,健常者に対する実験は行えたが,老眼者に対する実験は次年度に繰り越す結果になった. (2)焦点調節機構モデルを用いた最適行間隔の導出 本年度は,日本語文書に対する最適行間隔の理論的導出は行えたが,最適文字間隔の理論的導出は次年度に繰り越す結果となった.理由は2つある.第一は,最適行間隔の導出は最適化計算の繰り返しを必要とするため,計算そのものに時間がかかったことである.第二は,漢字「私」を用いた文書とひらがな「あ」を用いた文書に対する最適行間隔の導出を本年度行ったが,昨年度の結果(「■」と「国」で作った文書に対する最適行間隔)と異なる結果であったため,その相違点に関する試行錯誤を行った.
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今後の研究の推進方策 |
(1)健常者と老眼者の視知覚特性(見え方特性)の違いの明確化 今後の計画は以下の3点である.第1は,平成26年度に行った最適文書構造導出実験と瞬間提示画像知覚実験における不足部分(老眼者に対する実験)を補うための追加実験である.第2は,奥行き距離の異なる複数の面を重ね合わせた多重両眼立体視画像に対する奥行き知覚特性における健常者と老眼者の違いを明らかにする.この実験では,両眼立体視中の両眼の焦点調節応答特性を実測する必要性が生じる可能性が高い.当研究室には両眼対応の焦点調節応答実測装置はないので,その場合には他の研究機関の実験装置が使えるように交渉を試みる.第3は,健常者と老眼者の視知覚特性の違いを明確化する他の実験,および,健常者と老眼者の瞳孔面積の実測も検討する.これは,老眼者の焦点調節は変化しないので焦点調節の実測はあまり意味を持たないが,その代わり瞳孔径を変化させて健常者と同様の機能を維持している可能性も考えられるからである.
(2)老眼者用の視覚モデルの構築および視覚インターフェース設計への応用 今後の計画は以下の2点である.第1は,老眼者の焦点調節特性と視知覚特性が再現可能な視覚系モデルの構築である.既に開発してある焦点調節機構モデルは老眼者には適用できない.そこで,このモデルに老眼者の焦点調節状態が動かないという特徴を導入することにより,老眼者の視知覚特性(最適文書構造特性,瞬間提示画像検出特性,画質評価特性,両眼立体視特性など)がシミュレート可能になるかどうかを検証する.第2は,焦点調節機構モデルを老眼者に適合した視覚インターフェース設計に具体的に適用し,実証システムを試作してその有効性を検証する.適用対象は,ディスプレイ上の文書を最適表示条件(最適行間隔及び最適文字間隔)で表示するシステム,最適画質表示システム,両眼立体視画像の最適表示システムなどである.
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次年度使用額が生じた理由 |
差額を0にしようとしたが,僅かに誤差が残ってしまった.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は僅かであり,次年度の購入品の一部として使用する.
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