本研究は、言語音が特定のイメージと結びつくという「音象徴」という現象について、英語の音素が人に与える印象と、その印象に文化的普遍性と文化的特性があるかを検証するものであった。6つの英語母音と7つの英語子音の組み合わせからなる22種類の音声刺激にともなうイメージを18対の形容詞で構成される3つの尺度で測定するため、webアンケート調査を実施し、英語母語話者135名・中国語母語話者91名・日本語母語話者96名からの回答を分析した。 その結果、前舌母音は後舌母音よりも「良い・快適な・嬉しい・美しい・なめらかな・甘い」という評価性イメージ、「弱い・短い・小さい・軽い・薄い・浅い」という力量性イメージおよび「速い・若い・たくましい・積極的な・騒がしい・鋭い」という活動性イメージをもつという点において3母語話者群間で一致が見られた。これらの傾向は先行研究でも部分的には実証されてきたものであるが、本研究ではSD法の研究手法を応用し「評価性」「力量性」「活動性」という3尺度を用いることによって、音素のイメージを包括的に捉えたという点が重要である。 一方、ある母語話者群内において特定の音素ペアのイメージに統計的有意差が示されたときに、別の母語話者群内でも必ずしも有意差が表れるわけではないことも明らかとなった。しかし同時に、同一の音素ペアのイメージの差異が母語群間で逆向きの有意傾向を示すというケースは皆無であった。つまり、母語によって音象徴の表れ方の度合いが異なることが、音象徴の言語個別性につながると考えられる。 平成28年度は、上記の結果を論文としてまとめ発表すると同時に、研究対象を実在の語やフレーズ・文章にも広げるため、「音素カウンター」というシステムを構築した。さらに、この研究結果を英語学習者への音声指導へ応用するため、著名人によるスピーチ音源の分析や指導法の検討を行った。
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