草木を扱い、わずかな道具で建物や容器、そして衣服などを作る軟質文化の事例収集・分析から「農閑工芸」の検証を行い、実践的な「農関工芸」の造形論を構築した。 「農閑工芸」はワラ細工に代表されるが、軟質文化の造形に焦点を置き、自然環境との関わりが深い事例を調査の対象とした。そのため、稲作以前より現代に続く事例を取り上げ、調査と分析を行った。具体的には、東北地方におけるシナ・クルミ・ヤマブドウ・カバ・キハダ等による樹皮造形、石垣島、西表島におけるビロウ・アダン・チガヤ・ソテツ・アデク等による草木造形である。双方が遠い場所にも関わらず、素材の採取方法や造形手法など、数々の共通点を見出すことができた。 「農閑工芸」を教育の場でも活用する、ほうき作りに取り組んだ。筑波大学の授業で草木の育成・採取からほうき製作までを行うなか、ススキやコキアを素材としたほうき製作マニュアルを作成し、様々な場所で実施したワークショップに活用した。また、つくば市の伝統産業であるホウキモロコシによるほうき作りを詳細にまとめた冊子を作成した。 本研究によって得られた知見から作品を制作し展覧会に出展した他、各地においてワークショップを開催するなど、「農閑工芸」の研究が現代社会においても有効に働く事を示した。 生活形態の変化から、森林資源を活用した手工芸品は活躍の場を失ってきた。それとともに、森林資源を直接的に扱う技術も失われつつある。都市化の進む現代社会においては自然素材を扱う技術に触れる事は少ない。本研究を通して、農閑工芸と軟質文化の再評価を行いながら、自然素材を扱う技術やその造形論を次世代へとつなげる方策が得られた。
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