最終年度である平成28年度は、中国のソグド人聚落内部において信仰されていたケン教(ゾロアスター教の一種)の文化について考察する論文を発表した。中国のソグド人聚落内部の文化が、唐代に流行し、その影響が日本にも及んだと考えられる。しかし、ソグド人の信仰が中国社会に受け入れられることはなかったと考えられ、そのため日本に伝わることもなかったと推定される。また、今年度は、伎楽面に注目し、酔胡王、酔胡従の面に関して、美術史や自然科学の研究者によって行われてきた研究の成果を把握することにつとめた。その他、5月にはパリに出張し、ギメ美術館およびルーブル美術館で関連する出土資料の実物調査を行うとともに、ソグド、バクトリア地域の考古学・美術史の専門家に研究成果を報告し、今後の研究の進め方について助言を受けた。11月にはウズベキスタンに出張し、サマルカンドとタシケントにおいて、関連する資料の実物調査を行った。 本研究では、法隆寺・東大寺宝物に見られる「イラン文化」の実態を明らかにすることを目的とし、「イラン文化」=西アジアのササン朝ペルシアの文化という従来の考え方を見直し、中央アジアのソグドやエフタルの影響も及んでいることを、具体的な事例を挙げて証明することを試みた。正倉院に伝わる大刀の佩刀方法には、中央アジアを支配したエフタルの影響が認められることを、中央アジアの図像資料などによって証明することができた。酔胡王の面については、そのモデルが中国のソグド人聚落の首領(薩保)であることを示したが、中国における伎楽の流行やその背景については追及することができなかった。今後の課題としたい。
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