本年度は計画の五年目で最終年度に当たり、昨年に続けて東北大学附属図書館蔵『窺原抄』を底本として、研究協力者である久保堅一氏(鳥取大学准教授)、高橋早苗氏 (新潟大学准教授)、有馬義貴氏(奈良教育大学准教授)とともに翻字作業に当たった。本年度は、昨年、横溝が整理した国立公文書館内閣文庫蔵本の画像をも利用して異同の有無をも併せて確認した。また横溝を含む4名で、二年度目以降の各自の分担範囲において、翻字の全面的な見直しを行うとともに、『窺原抄』引用書目の本文を原典の本文と照合する作業を適宜行った。今年度の翻字作業の範囲は以下の通りである。《乙女・玉鬘......高橋、初音・胡蝶・螢・常夏......横溝、篝火・野分・行幸......有馬、真木柱・梅枝・藤裏葉......久保》。石出常軒の解釈(「私曰~」の部分)の独自性と、諸注釈書との関係、原典引用の方法と理路が明らかになってきた。翻字に関しては、本年度は既翻字部分の問題箇所について、横溝、久保氏、高橋氏には、東北大本(底本)を閲覧することで、翻字を確定するなどした。なお、翻字および翻字のチェックについては、次年度に持ち越さざるを得ない部分が 残った。なお、本研究に関わる実地調査としては、天理大学附属天理図書館に赴き、当館所蔵の『落窪物語』『住吉物語』『枕草子』の注釈書を調査し、賀茂真淵、村田春海、橘千蔭、上田秋成ら、近世後期における古典籍の注釈・研究と、知の継承のあり方について情報収集した。
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