本研究は、パキスタン系英語作家の「9.11小説」の主題と表現方法、とりわけ西洋モダニズム文学の影響を明らかにするものである。こういった作家が「西洋対東洋」「西洋対イスラーム」といった図式に収まらない、新しい世界観を提示していることのみならず、西洋のモダニズム以降の文学や思想の影響を受けていることは興味深い。そもそも1930年代以降ウルドゥー語文学にあったコスモポリタニズムに加え、シア=ウル=ハク政権下のイスラーム化政策への知識人の反発といった母胎から、西洋文学的手法の受け入れが容易であったと考えられ、英語圏文学の多様性のみならず、英語圏イスラーム世界の多様性を示してもいるだろう。
|