研究課題/領域番号 |
26370383
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
天野 惠 京都大学, 文学研究科, 教授 (90175927)
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研究分担者 |
村瀬 有司 京都大学, 文学研究科, 准教授 (10324873)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イタリア文学 / ルネサンス / アリオスト / タッソ / ベンボ『俗語論』 / ペトラルカ / イタリア語 / 言語問題 |
研究実績の概要 |
研究計画に沿って必要資料の整備を進めたほか、交付申請の段階では存在の知られていなかった新資料がイタリアで発見されたことから、これを入手するべく発見者のペルージャ大学 Pulsoni教授と連絡を取りつつ情報収集に努めているところである。ベンボ『俗語論』の最終決定版たる1549年刊の Torrentino 版テキストは、1525年の初版本の余白にベンボ自身が加筆・訂正の指示を書き込んだものが、そのベースとなっていたことがほぼ確実視されていた。しかし、この書が著者の没後にフィレンツェで刊行されているために、彼の指示がどこまで忠実に守られたのかについては、政治的な要因を含む当時の状況からも疑問視されるケースがあった。新たに発見された新資料とは、49年版のベースとなったことが確実視される書物の実物に他ならない。この発見は、言うまでもなく本研究にとって無視することのできない重要性を持つものであるが、問題の書物が私物であることから、写真等の入手が必ずしも容易ではなく、従って問題となる個々の個所に関して具体的に先方と連絡を取り合う必要があり、その作業を継続中である。 また、これとは別に、ベンボが校訂した1501年刊のアルドゥス版ペトラルカ詩集に、やはり彼自身が書き込みをした書物も発見されており、イタリア本国においてはこれに関する新たな研究が進行中である。このため、アルドゥス版と『俗語論』に引用されたペトラルカの詩句の間にある異同に関する研究代表者による既刊の研究「ベンボとアルドゥス版『カンツォニエーレ』」(イタリア学会誌56号、2006年)には見直しが必要となり、本研究にも影響が及ぶ可能性が高い。 『俗語論』第三巻の手稿および三種の刊本の比較を含めた翻訳作業は予定通り進めているが、計画段階においては予想し得なかった状況の変化を踏まえる必要があることから、全般的に若干の遅れが生じている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
『俗語論』の三種の刊本に関しては、当初の計画通りに資料の入手・整理が進んでいるが、手稿に残された訂正痕の詳細な記述と解釈には予想以上の時間が掛かっている。こうした情報を含む校訂版は既に公刊されており、そこから得られる知識は非常に有益であるが、手稿上の訂正の跡を順を追って記述するに際しては、主として個々のケースによりその分量が大きく異なるために、その都度適切な方法を採用していく必要に迫られており、時間の掛かる作業となっている。現時点で作業が一応の完成を見ているのは17章までであり、第三巻全部について予定通りに作業を終えることは不可能と考えられる。 また、「実績の概要」欄において触れた通り、本研究がまさにその対象としている問題に関してイタリア本国における新たな研究の進展があり、その成果を視野に入れる必要が生じたことからも、当初の計画通りのペースで作業を進めることが困難になった。しかしながら、これは本研究の開始段階ではその存在が判明していなかった新資料が発見されたことに起因するあくまでも表面的な遅れであって、本質的には予想をはるかに超えるレベルの成果に繋がっていく可能性を内包していることから、むしろ歓迎するべきことと考える次第である。 一方、イタリア叙事詩に関する研究においては、ボイアルド、アリオスト、タッソの作品における直接話法のデータの収集が完了し、研究分担者がこれに基いて研究論文を執筆しており、ほぼ計画通りの進捗状況となっている。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には計画した通り、ベンボ『俗語論』の資料整備と並んでテキストの正確な解釈を日本語訳および注釈の形で定着させていく作業を続けるほか、アリオストの自筆手稿、いわゆる Frammenti autografi に関しても詳細な調査を進める予定である。 しかし、『俗語論』1549年版のためにベンボ自身が書き込みを行った初版本が発見されたこと、および彼の校訂になるアルドゥス版ペトラルカ詩集への書き込みに関するイタリア本国における研究の急速な進展があったこと等を視野に入れつつ、その成果をも本研究に生かしていくつもりである。具体的には、第三巻のテキストの整備、およびその和訳ならびに注釈の中に、新たに発見された資料から判明する情報を盛り込んでいくことになろう。なお、新資料の発見によってテキスト解釈そのものが影響を受ける可能性も否定しきれないものの、それは部分的なものに留まると予想される。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品購入にあたり若干の節約が可能となった結果生じた残余である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度において、前年度未使用額を含め、書籍代等に使用する計画である。
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