研究課題/領域番号 |
26370519
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
中谷 健太郎 甲南大学, 文学部, 教授 (80388751)
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研究分担者 |
広瀬 友紀 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (50322095)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 心理言語学 / 文理解 / 文法依存関係 / 日本語 / 否定対極表現 / 国際研究者交流・アメリカ / 二重目的語構文 / 韻律構造 |
研究実績の概要 |
本研究は,母語話者が文における語と語の文法依存関係をリアルタイムで理解する際に,どのように記憶資源を利用するかを解明するのが目標であるが,本年度は日本語に焦点を当てて研究が行われた。日本語においては,様態副詞が最大にポジティブな意味を表している場合に取り立ての助詞「ハ」が付くと否定述語の後続が強く期待されるという事実(Hara, 2006, etc.)を利用し(擬似否定対極表現),文法依存関係の局所性と処理負荷の関係(局所性の効果)を自己ペース読文実験により検証した。その結果,副詞表現についても擬似否定対局表現においてのみ文法依存が局所的であることの処理促進効果が見られた。その効果は,理解度尺度において高得点の被験者においてより強く見られた。この成果は29th Annual CUNY Conference on Human Sentence Processingなどにおいて発表した。また,日本語の二重目的語構文における文理解の難易度について、直接目的語と間接目的語間の語順と、間接目的語の有生性を同時に操作した読み時間計測実験を行い、間接目的語の有生性もしくはその間接目的語に付与された意味役割によって、より基本となる語順が異なることを示唆する結果を得た。この成果を第150回日本言語学会で発表した。節境界の曖昧性を用いた主要部前処理のあり方について、名詞句の長さ(韻律構造)の影響を確認することを目的とした読み時間計測実験を行い、文頭名詞句の長さが、初分析における構文解釈に作用していることを示唆する結果を得た。この結果を日本言語科学会JSLS2016に投稿し採択された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者は平成27年度にカリフォルニア大学サンディエゴ校に在外研究に赴き,そこでは主に新しい知見を吸収することと,これまでの研究成果を現地の研究会やコロキアムなどで発表することに時間を費やした。反面,新しい実験執行については,異国の地という制約もあり,やや立ちおくれた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度はこれまで得られた文法依存関係(主述関係,否定対極表現やwh疑問)についての知見を総合し,局所性と記憶資源の関係について,記憶引き出し(retrieval)の負荷という観点だけでなく,確率論に基づく期待の観点から総括し,実時間文処理の負荷とは何かということについての仮説を構築する。また,前年度の研究代表者の在外研究で得られた知見に基づき,特に語用論的推論が文の逐次処理の中でどのように行われるのか,それが文処理の実時間記憶資源利用とどのように関わるかについて検証できるような実験計画の構築を開始する。主語関係節と目的語関係節の相対的な処理負荷に関しては、様々な言語で検討がなされているが、主要部後置言語においては、これらの構造そのものに起因するコストと、構文の一時的な曖昧性(関係節であることを確実に示す統語情報が関係節の後まで得られない)の影響を分離することが難しいことが指摘されてきた。この問題に対処するため例えばIshizuka et al. 2006らは関係節の出現を強く予測させる先行文脈を用いた実験を行ったが、結果については検証の余地が残されている。この問題に改めて取り組みつつ、先行文脈の関係節の予測可能性そのものを操作要因に加えた(head nounが言及する指示対象の候補が1つの場合と2つの場合を設ける)デザインで実験刺激をH27年度から継続して制作中である。平成28年度には実際のデータ収集を行いその結果を分析する予定である。
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