本研究は、近世という、漢文訓読が大きく変化した時期において、漢文という外国語を翻訳することによって生じた日本語文章(漢文訓読文)の語法を精査するとともに、その翻訳作業によって意識化された日本語意識の形成過程を明らかにしていくものである。3年目である平成28年度は、過去2年間の研究実績をふまえ、これまで収集してきた資料の整理を行うとともに、その中でも特に聖書を資料として、翻訳によって生じた日本語研究の調査結果をまとめた。その研究成果は、昨年度第5回外国資料研究会(愛知県立大学、2016年1月23日)での研究発表をもとに、「明治初期における聖書の翻訳と漢文訓読語法 ――「スナハチ」を例に――」という論文を発表し、また、今年度の第7回外国資料研究会(愛知県立大学サテライトキャンパス、2017年1月13日)において「明治初期における聖書の翻訳と漢文訓読語法 ――「欲ス」を例に――」という発表を行った。 この二つの成果を、さらに他の表現形式に応用していくことにより、近世から近代初期において、日本語意識がどのように形成されていったのかを明らかにしていくことが可能になると考える。 また、この3年間の研究の成果としては、明治初期における聖書の翻訳を調査することが、当時の日本語意識を明らかにするために有効な方法であることが明らかになったことがあげられる。聖書は、威厳のある文章でなければならないという考え方の一方で、誰でも簡単に読めなければいけない、という相反する性質を備えており、その考え方をどのように文章化していくかがまさに当時の日本語意識といえるからである。このような観点から引き続き研究を進めていきたい。
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