研究課題/領域番号 |
26370560
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
中村 芳久 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (10135890)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 認知モード / 主観性 / objective content / 言語進化 / コミュニケーションの進化 / モノ化と主体化 |
研究実績の概要 |
研究課題のうち26年度に遂行予定のものは、①迷走する言語の主観性に関する議論の問題解消と②認知モードに基づく言語進化とりわけ再帰性の進化について、であったが、一定の成果を挙げることができた。①については、英語の一人称代名詞を含まない次の2文 Vanessa is sitting across the table (from me). (I) Don't really know.について、認知主体Cが、OC(objective content)の内側で、IS(Immediate Scope)の外に位置づけられることにより、これまでの認知文法理論を損なうことななく、さらに問題とされていたOCの概念を矛盾なくとりこみながら、理論的説明に整合性を持たせることができた。この場合英語では、本来のRの位置にCが入り込むことになるが、日本語では最初からRの位置はCで占められているので、類似の日本語表現にはRを持ち込む必要はない。②については、基本的にIモードからDモードへの認知的進化によって言語とコミュニケーションの進化に対する認知的説明が可能となるが、とりわけ再帰性の認知的根拠としては、関係がモノ化(reification)によりモノとして捉えられると、そのモノが別の関係の項として入り込み、より複雑な(再帰的な)構文の原型が形成される、ということである。関係のモノ化と、それによって生じたモノが別の関係概念の項に組み込まれることの繰り返し適用の可能性が、再帰性の生むことになる。ただし、関係概念をモノとして捉えるのは、主体化(subjectification)でもあり、思考の繰り込みというような操作が再帰性の認知原理というよりは、プロファイルの位置を変えるというようなより単純な認知操作が、再帰性を創発させるというような可能性があることがわかってきた。以上の論点は、日本認知言語学界のワークショップ、シンポジウム、ドイツ国際認知言語学会で発表され、日本認知言語学会論文集第15巻に2本の論文として掲載される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由は、上記研究実績の概要の通りであるが、他にも、認知モードの認知科学的位置づけがより明確に示されるようになった、とりわけ認知脳科学と認知モードの解明が一部行われたということも、理由として挙げることができる。
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今後の研究の推進方策 |
認知モードと認知脳科学との関連づけ、つまり認知モードを認知科学的に検証しておく必要がある。2種類の認知モードは、Stanovich(2004)以来研究が蓄積されている「心の二重過程説」(dual-process theory)とも対応し、これを出発点として認知モードの認知科学的検証・精緻化を行う。これは日本英語学会春季大会の特別後援で一部行う予定である。また認知モードに基づく言語類型の新展開を進める必要がある。
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