本研究は、グローバル化が進む中、その一方で活性化しつつあるローカルな動きに着目し、改めてローカル、ローカリティとは何かを考察するものである。具体的にはイタリアの事例を取り上げ、その実情の調査を行い、論点を整理していくことによって、一般的なローカリティ論の足掛かりとした。 イタリアの調査は主に2か所で行った。1つは、約30年前から調査を継続しているローマ近郊の町であり、現状だけでなく過去の町おこし運動や、人々の意識の違いを世代差、出身の違い等に着目して調査を行った。そこからは、彼らのローカリティが多次元かつ多様・多義であること、ローカリティはいつの時代においても人々の生活の中で重要な資源であったことが明らかになった。資源としてのローカリティという視点は、とくに人やモノや情報の移動が盛んになっている今、他の地域においても重要である。 また3年度目から、食というテーマがイタリアの町おこし運動の中で鍵となっていることに着目し、ナポリ近郊で調査を始めた。最終年度は地中海料理をめぐる動きに着目し、彼らのいう地中海には、グローバル、ナショナルなものの他に、様々なレベルのローカルなもの(州、町、地方など)がまじりあっていることを明らかにした。これは、ローカルなものが、グローバル、ナショナルなものの中でこそ生産・再生産されているという構図でもあり、もう1つの調査ともつながる。また、そこからは、ローカリティはもはや物理的な距離の問題ではなく、我々の社会における空間認識の変化として再考する必要があることも浮かびあがり、グローバル時代における地理的認識についても理論的な研究を始めた。 これらの成果は、すでに一般向けに講演会や雑誌での連載などで公開しているが、今後はさらに調査結果を精査して論文等の執筆を行い、この研究過程で培ったナポリの大学研究機関との協力を得て国際共同研究等の組織化を試みていく。
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