平成28年度は、第1に、和解における裁判所の関与について、オーストラリアの「和解の申込み(Offer of Compromise)」制度を参照して日本法への示唆を得た。和解は、本来、当事者の役割が大きいが、和解の申込み制度は、裁判手続の初期において、当事者間の和解を促進するために、一方当事者が和解案を提案した場合で相手方当事者がそれを拒絶して裁判手続が続行し判決に至ったものの、その判決内容が拒絶した和解案よりも拒絶した当事者にとって良くない内容であったときに、相手方の訴訟費用(弁護士費用も)を負担するという制裁がつく制度である。これは、裁判所が、訴訟費用負担の裁判を行うものであり、和解案の正当性を担保し、和解を促進する機能を有しており、オーストラリアでは、有益な制度とされているようであった。日本ではこのような裁判所が和解案の正当性を担保するような制度がないため、立法的な示唆を得た。また、7月には、アメリカの法曹倫理の国際学会に参加し、訴訟における弁護士の事実解明に関する倫理的な見地から、客観的事実認定への役割を考察する機会を、80カ国以上の参加者と共に、様々な議論を行う機会を得た。とりわけ、コモンローの国では、弁護士/依頼者間は、信認関係(fiduciary)と考えられており、契約関係より一段高い義務(忠実義務)を弁護士は負うとされているが、そういったものも当事者側の訴訟上の客観的事実認定における役割に関して重要な要素であることが分かった。その成果もすでに公表したところである。 全体を通じて、日本の裁判所は、まだまだ事案解明および客観的な事実認定のために、釈明などの裁量を行使する余地があると思われるし、また、和解などの場面を含め、訴訟費用の裁判を背後に控えさせることで、訴訟手続の充実や和解の促進を促せることが比較法的に分かり、有益な示唆を得た。
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