研究課題/領域番号 |
26380113
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松井 和彦 大阪大学, 高等司法研究科, 教授 (50334743)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 不安の抗弁権 / 債権法改正 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、破産手続における不安の抗弁権の取扱いについて、ドイツ法との比較法研究に着手した。当年度は本研究の初年度であることから、基礎的な文献の収集および精査に重点を置いた。具体的には、破産手続における同時履行の抗弁権および不安の抗弁権の取扱いに言及した日本語およびドイツ語文献を購入し、または複写を収集した。ドイツ語文献を収集するため、平成26年8月下旬にドイツ・ケルン大学を訪問した。こうして収集した文献を精読し、破産手続前に行使されていた不安の抗弁権が、破産手続に移行したときにどのように扱われるのか、破産手続内で不安の抗弁権を行使することができるのかを明らかにするための準備作業を行った。 他方、現在、わが民法(債権関係)の改正作業は大詰めを迎えている。その過程で、本研究のテーマである不安の抗弁権は、その扱いに大きな変更を受けることとなった。平成25年2月に公表された「民法(債権関係)の改正に関する中間試案」では、不安の抗弁権に関する規定が民法の中に新設されることが提案されており、しかも、その要件として倒産手続の開始が明示されることが目指されていた。しかし、平成26年9月に公表された「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案」では、不安の抗弁権に関する規定を民法の中に盛り込まないことが示された。要件の明確化が困難であるというのがその理由であり、不安の抗弁権という法理論それ自体は維持されているため、本研究の意義が失われることはないが、立法を前提とした本研究の計画には、一定の軌道修正を迫られることとなる。今後は、解釈論として不安の抗弁権の要件・効果の明確化を目指した内容にシフトして、本研究を継続することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、不安の抗弁権の法律効果、とりわけ①倒産手続における不安の抗弁権の取扱い、②継続的契約における不安の抗弁権について、主にドイツ法との比較検討を通じて明らかにすることを目的としている。このうち、平成26年度は、両者に共通する基礎的資料の収集を行うと同時に、①の問題について、資料の精読・整理・分析を行うことを予定していた。このうち、現在まで、基礎的資料の収集は順調に進んでいる。また、これらの資料を精読する作業も、おおむね順調に進んでいる。 しかし、研究の方向性にやや変更を迫られる事態が生じた。平成25年2月に公表された「民法(債権関係)の改正に関する中間試案」では、不安の抗弁権に関する規定が民法の中に新設されることが提案されており、しかも、その要件として倒産手続の開始が明示されることが目指されていた。このため、本研究は、そこで示された倒産手続の開始に関する要件の妥当性を検討することを大きな目的としていた。しかし、平成26年9月に公表された「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案」では、この要件のみならず、不安の抗弁権に関する規定の全体を設けないことが提案されるに至った。このため、本研究は、立法提案の検討やあるべき方向性を探究することではなく、あるべき解釈論を明らかにすることに修正をせざるを得なくなった。これに伴い、研究のスタンスや分析視角を若干修正しなければならず、これにより研究に若干の遅れが生じるに至っている。
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今後の研究の推進方策 |
民法(債権関係)改正において、不安の抗弁権に関する規定が設けられないとされたことに伴い、本研究のスタンスを、今後は解釈論として展開していくことが必要となる。もっとも、平成26年度の作業は、基本的に無駄にはならない。本研究の2年目である平成27年度は、引き続き日本法、ドイツ法に関する資料を分析・整理し、破産手続において不安の抗弁権をどのように扱うべきかについて、立法提案の検討ではなく、解釈論として、検討を進めていく予定である。また、平成27年度の後半では、第2のテーマである継続的契約における不安の抗弁権の位置づけについても、資料の収集・精読を開始する予定である。 とりわけ、平成27年度中に改正民法が国会を通過し成立する予定であり、しかもそこで債務不履行に関する法規定が大きく変更される予定であるため、改正法の全体像についても研究を行う必要がある。また、法改正によって従来の不安の抗弁権論がどのような影響を受けるのかについても留意し、改正法に則した不安の抗弁権論を解釈論として構築することが必要となる。本研究は、不安の抗弁権の効果論を対象とするが、要件論を含めた負担の抗弁権論の全体に対する法改正の影響を見据えながら、本研究を進める予定である。 その際、民法改正作業の過程で公表された資料や議事録等は、膨大な量にのぼり、会議を追うごとに修正されていく条文案を正確にたどることが困難になっている。また、法改正の過程や立法提案等を検討した論文や解説等も数多く存する。これらを効率的に分析するため、資料の収集・整理を補助する事務員を雇用することを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していたドイツ語書籍が平成26年度中に出版されなかったため、そのための購入費用分の余剰が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
購入を予定していた書籍の出版時期は未定であるため、平成27年度はその費用を考慮しないこととした。 他方で、わが国の民法(債権関係)の改正に関する文献・立法資料等が、雑誌論文の形で、あるいはインターネットを通じて数多く公表されている。法律案は平成27年6月に成立する予定であり、今後さらに多くの論文、解説、資料等が相次いで公表されることが予想される。そこで、これらの文献・資料を収集・整理するため補助員を雇用する予定である。
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