最終年度においては、問題をより歴史的にとらえることに重点を置いた。すなわち、指図による占有移転においては、常に代理占有者と本人の関係が問題とされる。とりわけ、直接占有者が元の間接占有者の信頼を裏切る形で紛争が生ずる場合に原権利者と譲受人の利益調整が模索され、そこで占有移転の成否や直接占有者の挙動の評価が問題とされる。日本民法で言えば、他主占有者の自主占有への変更を扱う185条並びに代理占有の喪失を扱う204条が関係し、いずれにおいても、代理占有者の意思変更が共通して出てくる。前者はフランス民法、後者はドイツ普通法にルーツが求められ、さらに古くは、時代の変化とともに規範内容が変化したと推測される、ローマ法の法範(regula)「何人も自ら占有原因を変更できない」に関係する。実は、この点は、ドイツ法では、代理占有関係が複数並存しうるかという並存占有(Nebenbesitz)の問題に関わり、現代性を失っていない。この錯綜した文脈の究明を試みた(紀要に公表予定)。 初年度において、問題の状況を日独の関連規定の成立過程、さらにその後の判例学説の展開の検討をした。ドイツ法では、立法過程において、間接占有や善意取得などの新たな概念や制度が導入され、占有概念の客観化、指図による占有移転方法の内容変更、など、大きな流れの中でこの問題を理解する必要を感じさせた。とりわけ、占有改定と指図による占有移転の場合の規律の整合性をめぐって、議論の深まりが感じられた。 二年目は、契約上の地位の移転の規律が債権法改正に際して立法提案がなされた経緯を検討し、この問題と、占有移転の問題との関連理解を試みた。 全体としては、指図による占有移転の場合の原権利者と譲受人の利害調整において考慮されうる諸要素がどのような諸構成を通してなされているかを析出し、今後の検討の素材を提供したことが成果である。
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