研究課題/領域番号 |
26380237
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
三野 和雄 京都大学, 経済研究所, 研究員 (00116675)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 企業の異質性 / 企業の規模分布 / 金融市場の不完全性 / 財政・金融政策の効果 / 内生的経済成長 |
研究実績の概要 |
平成27年度も前年度に続き、企業の異質性と金融市場の不完全性を含むマクロモデルのを検討したが、27年度は特に財政政策の効果を中心に研究を行った。 具体的には,企業の生産性に異質性があり、かつ企業の投資に借入制約(担保制約)が課されると仮定し、種々の税率と政府支出の変化がマクロ経済のパフォーマンスに及ぼす効果を理論的、数量的に考察した。上述のような設定のもとでは、企業の生産性のレベルのカットオフ水準が内生的に決まり、その水準を超える企業だけが生産活動を行い、それ以下の企業は撤退し、企業家は利子生活者として資金の貸し手に回る。財政政策はこのットオフ水準にも影響を与えるため、異質性が存在しない代表的企業モデルに比べ、政策の波及プロセスはより複雑になる。 27年度の研究では、上の設定に基づく内生的成長モデルを作り検討をした結果、政策効果の理論的な方向(例:資本課税率が上がると経済成長率が下がる等)は、代表的企業モデルの場合と大きな差は見られなかったが、政策効果を数量的に評価すると、企業の異質性の有無によってかなり大きな違いが現れることを確認した。現実の経済では、企業の生産性や規模に大きな差異があるから、この結果は、代表的家計・企業モデルを用いた既存研究による政策分析の結果を再考する必要性があることを示している。これらの研究成果は、日本経済学会の会長講演論文として、機関誌Japanese Economic Reviewに掲載され、関連する論文もいくつかの機会に発表することができた。 なお上の問題に加え、27年度は、企業の異質性が存在するもとでのインフレーションと経済成長の関係に関する研究、および借入制約の定式化を変更したときのモデルの動学的振る舞いの違いに関する研究も行った。これらの問題は、28年度も継続して研究をする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去2年間(平成26,27年度)の研究は、概ね当初の計画通りに進捗している。特に27年度の研究では、これまで既存研究の多くが用いていた代表的企業・家計モデルによる政策効果の評価が、企業の異質性の導入によってどのように変わるかという問題を明確に分析することができ、一定の成果を得たと判断される。また研究成果を査読誌と学会等で発表するという当初の目標も、ほぼ順調に達成されつつある。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である28年度には、26,27年度に検討した基本モデルを拡張し、金融政策の効果を分析する。特に企業の異質性の存在がインフレーションと経済成長の長期的な関係に与える効果を中心に検討をする予定である。また金融市場の不完全性の代替的な定式化も27年度に続けて検討し、定式化の違いが理論的な結論をどの程度左右するかを精査したい。` なお本研究で用いているモデルでは、分析を簡単にするための制約がいくつか置かれている。それらの制約は、現在のところ理論的結果には大きな影響を与えていないように見えるが、数量的結果には影響している可能性が高い。ただし、より一般的なモデルを分析するためには、本格的な数量分析が必要であり、28年度中にその方面にまで研究を進めるのは困難だと思われる。経済主体の異質性を考慮した動学的マクロモデルを用いた政策効果の分析は、研究代表者の長期的な研究テーマでもあり、残された問題には29年度以降も続けて取り組む予定である。28年度は、今後の研究につながるかたちで本基盤研究の計画遂行を終えるようにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、平成27年6月にヨーロッパで開催される国際学会に参加することにしていたが、他の用務と重なり断念をした。旅費・参加費とし支出予定をしていた額の一部は国内旅費にあてたが、残額がでた。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度は、台湾の中央研究院における共同研究のために2週間程度の出張をするか、あるいは共同研究者を同程度の期間招く予定である。これは当初の計画には入れていなかったので、残額はそのための旅費・滞在費にあてたい。
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