平成28年度は、主として企業の異質性が存在するもとでの金融政策の効果を分析した。分析のフレームワークは、企業のR&Dが成長の原動力になる内生的成長モデルである。このモデルに、企業の中間財購入に対する現金制約のかたちで貨幣を導入しすると、拡張的金融政策がもたらすインフレ率の上昇は、企業のR&D活動を低下させ、経済成長率を引き下げる。この結果は既存の研究によっても確認されているが、既存研究は企業が同質であるという標準的仮定に従っているため、インフレ率と経済成長率の負の関係は、直線的になる。しかし実証研究の多くは、インフレ率と成長率の関係は非線形であり、インフレ率が閾値(一般には年率20%程度)になるまではインフレ率と成長率の関係は非常に弱く、閾値を超えると明確に負の関係になることを示している。本研究では、上述のモデルに企業のR&D能力に異質性が存在するという仮定を導入した。その結果、インフレ率がR&D活動に参加する企業と撤退する企業を分ける効率性のカットオフ水準にも影響を与える結果、インフレ率と経済成長率の間に実証研究が示す非線形関係が生じることを示した。 これに対し、平成26,27年度には、企業の異質性が存在するもとでの財政政策の効果を検討をした。分析のフレームワークは、資本の生産性に異質性があるような内生的成長モデルである。このモデルに投資に対する借入制約のかたちで金融市場のフリクションを導入すると、生産活動を行う企業と撤退する企業を分ける生産の効率性の水準が内生的に決定される。この場合、資本課税、賃金課税、消費税、政府支出のいずれもがこのカットオフ水準に影響を与えるめ、政策の変化が経済成長率に及ぼす量的効果は、代表的企業を仮定する標準的なモデルとは相当に異なる。本研究では、借入制約に関する代替的な仮定のもとで、各政策が経済成長に及ぼす量的効果を詳細に検討した。
|