本年度は、心理学研究におけるベイズ統計学の普及に関する教授法に関する研究の仕上げとして、全国の20組の研究者と一緒にベイズ的アプローチによる分析事例を公開した。 米国統計学会が2016年に発表した統計的有意性とp値に関する声明は「科学的な結論や決定は、p値が有意水準を超えたかどうかにのみ基づくべきではない。」と宣言されている。しかし声明は、新しい時代の統計データ分析の必要性を示すのみで、残念ながらそれに代わる具体的な定石を示していない。群雄割拠の2018年現在、承認された新しい分析手続きとしての定石は、今だ確定していない。百家争鳴の状況だから、いろいろな流儀があって、どうすべきかの意見は必ずしも一致していない。しかし我々は権威者から新しい定石が与えられるのを待つのではなく、統一されてから動くのでもなく、事例集を著した。 ただし不安定なことを論じているのではない。細かい違いはさて置き、1つだけはっきりした新しい道筋が見つかっているからである。それは尤度を使って現象を考えるという心理学研究のパラダイムである。これは有意性検定の手続きを暗記し、当てはめ、有意水準を超えたか否かを判定するという、現在主流の心理学研究のパラダイムを180度転換する思考法である。ベイズか頻度論かという選択とも違う。「この興味深い現象は、どのように生成され、データとして自分の眼前に現れたのだろう」という疑問に尤度を使って答えることである。確率分布によってデータの生成過程をモデル化することである。本年度はその活動を達成できた。
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