本研究は、インドネシアにおいてグローカル・コンピテンシー(グローバル時代に、国民として、また地域社会の開発の担い手として生き抜く力)がどのように育成されつつあるのかを、経年比較、地域比較調査をもとに解明することを目的とした。 研究調査地は、5州6地域(ジャカルタ首都特別州、東ジャワ州マラン、西スマトラ州ムンタウェイ諸島シポラ島およびパダン、西カリマンタン州ポンティアナック、マルク州アンボン)であり、大学生、中学生およびその保護者の3世代を対象として、ナショナル、ローカル、およびエスニック・アイデンティティ、グローバル化への意識および職業選択(場所、貢献意識)についてアンケート調査を行った。また各地域が抱える課題(宗教抗争・民族抗争、地域開発、都市化)に関連する地域科授業の観察および地域科担当教員らへのインタビューを行った。 世代別傾向について要約すると、ナショナル、ローカル、およびエスニック・アイデンティティは、保護者世代と中学世代は高く、大学生はやや低めであり、グローバル化受容意識は大学生が文化への影響についてネガティブな結果が出た。貢献意識についてみると、3世代の中で中学生が最も世界への貢献意識が高く、国家貢献意識よりわずかに低い程度である。一方、地域貢献意識は全体的に低めであることが分かった。愛国心教育とグローバル市民教育のバランスは取れているようであるが、地域教育がやや弱いと推測される。地域別の傾向を要約すると、アンボンのみナショナルアイデンティティが低めで、特に保護者世代はローカルおよびエスニックのアイデンティティも低いことが明らかになった。ただしアンボンでは、中学生、大学生のローカル・アイデンティティや貢献意識が他地域に比べて高く、紛争後の地域愛醸成教育が成功していることが分かった。
|