研究課題/領域番号 |
26381161
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
富田 真紀 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 准教授 (20708044)
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研究分担者 |
牟田 博光 関西学院大学, 付置研究所, 研究員 (70090925) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 開発途上国 / 基礎教育 / 学力格差 / 要因分析 / 東南アジア |
研究実績の概要 |
27年度初めにミャンマー・タイにおいて情報収集を行った。タイにおいては、小規模なインタビュー調査を行い、中国系タイ人の教育に対する考え方を聞いた。その結果も踏まえ、PISA2000の算数のデータを用いて、学校要因、家庭要因が学力に与える影響について分析を進めている。当初、TIMSS1999のデータを用いる予定であったが、線形階層モデルによる分析により適していると思われるPISAのデータを使用することとした。 変数のレベルを合わせるため、学校要因については学校平均の算数の学力に対する回帰モデルを構築して説明力の大きさを算出し、家庭要因については各生徒の学力に対する回帰モデルを構築して説明力の大きさを算出した。分析の結果、家庭要因については、家庭の豊かさ、親の学歴、親の教育への支援などの変数の学力への影響力が確認され、学校要因については、正式な資格のあるフルタイム教員の人数、図書室の設備、授業の進捗・管理体制などの変数の学力に対する影響力が確認された。学校要因の変数を用いたモデルの調整済R2は0.45と非常に高かった一方、家庭要因の変数を用いたモデルの調整済R2は0.14と小さかったため、現在、家庭要因モデルで、合成変数を含め、より調整済R2が高くなる変数の組合せがあるか分析中である。更に、2016年3月に開催されたComparative and International Education Society (以下、CIES)の第60回大会で本研究の進捗について発表し、あわせて情報収集した。 ミャンマーについては前年度の3月に全国学力調査が行われ、元共同研究者・現連携研究者でミャンマー教育大臣アドバイサーである牟田先生の人脈から学力調査のデータを入手できる見込みでの現地調査であった。しかし、ミャンマー政府の方針が転換され、当初の学力測定の目的から卒業試験扱いになったため、データが外部非公開となり、データの入手・分析が不可能になってしまった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
タイについては、学力に影響を与える要因について、学校要因、家庭要因の変数を用いてPISAのデータで分析を進めているが、分析が完了していないこと、また、27年度に実施予定であったタイでのインタビュー調査または質問紙調査は受入先との日程があわず、28年度に行うこととなってしまったことから、当初の予定よりやや遅れていると考える。また、ミャンマーについては、調査に出向いたもののデータ入手ができなくなってしまったため、多少時間的なロスが生じてしまったと言わざるを得ない。 ミャンマーは国の事情が非常に特徴的であるので、東南アジア地域の他の国々と比較してどう異なる分析結果がでるのかと言う点で分析対象として大変興味があったため、分析対象にできなかったことは大変残念である。しかし、ミャンマーのデータ分析は計画当初には見込んでいなかったことであり、当初はPISAやTIMSSなどの公開データをもとに分析を進めていくことを考えていた。本研究のポイントである「経済水準が低い国において」学力に影響を与える要因という点からみると、ミャンマーでのデータ分析ができなくても2000年前後のタイやインドネシアもそれに類する水準にあるため、当初の予定通り上記の公開データで分析を進めていけば問題はないと考える。
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今後の研究の推進方策 |
タイにおいては、学力に影響力のある家庭要因、学校要因の変数を分析により選別しているところである。その結果を踏まえ、家庭要因、学校要因のうち、学力への説明力の高い変数の組み合わせを用いて線形階層モデルを構築し、学校要因と家庭要因の学力への影響力を比較する予定である。また、27年度に実施した現地調査で数名のバンコク在住の中華系タイ人にインタビューを行った際に、親が小学校、中学校までの教育しか終えていなくても、教育が貧しさから抜け出す手段だと認識し、子供への教育に非常に熱心で経済的に苦しくても子供に教育を続けさせようとしていたという話が聞かれた。このような姿勢は他の途上国とは少し異なる印象を持つ。28年度に実施予定のインタビュー調査または質問紙調査では、PISA2000の実施当時、PISAの試験を受けた世代と近い世代にインタビューまたは質問紙調査を行い、親の教育への考え方と具体的な親の教育へのサポートについても掘り下げて確認し、分析結果と乖離がないよう質的確認を行う予定である。 加えて、インドネシアのPISA2000、タイのPISA2012のデータを使って同様に分析を進め、同国内で経済水準が上がると学校要因、家庭要因の学力への影響力がどのようにかわるのか、PISA2000実施当時の経済水準がより低かったインドネシアはタイと比較してどのような結果になるのか分析を進めていく予定である。もし、見込みが立てば、経済水準の低い他のアジアの国に於いてのデータ入手を追求し、分析したい。また、並行して国内の学会やシンポジウムへの参加による情報収集を行い、分析結果をまとめて来年度のCIESで発表したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度に半分以上の使用額を残してしまい、27年度は本科研の直接経費全体の半分以上の予算があったため少し繰越額が発生してしまったが、大部分の予算は使用済みである。唯一実施できなかったのが、タイで実施する予定であったインタビュー調査または質問紙調査である。27年度初めに実施したタイでの現地調査の際の打合せを踏まえて、同年度内にインタビュー調査または質問紙調査を実施することを想定していたが、現地受入会社との日程調整がつかず、28年度に実施することとなったため、繰越額が生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度からの持ち越しとなった調査については、上記のとおり既に調査に協力してもらえるタイの会社が決定している。28年度の夏の実施に向けて詳細を調整して進めて行く予定であり、繰越額の使用用途は既に決まっている。 最終年度である28年度は当初から3年間の中でも予算配分が一番低く、27年度からの繰越額を含めても、28年度の予算は27年度の実使用額を下回るので、28年度内に繰越額を含めた予算を使用することは現実的に可能であると考える。現状の研究計画では、国内学会参加による情報収集、海外現地調査、CIESでの学会発表、統計分析に関する本と追加のソフトウエア等の購入を予定しており、これらの計画を予定通りに進めることで予算に余剰は生じない見込みである。
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