研究実績の概要 |
本研究は、学校要因および家庭要因の学力に与える影響力が、国の経済水準の違いによってどう異なるのか、東南アジアの事例を用いて検証している。具体的には、PISA2000のタイとインドネシアを事例に、生徒レベルの変数を学校平均でまとめ、学校レベルの学力重回帰モデルを構築することで、学校要因および家庭要因の数学の学力への影響力の大きさを比較した。その結果、2000年のGNI/Capitaが1,990USDのタイにおいては、学力に対する家庭要因の影響力は非常に大きい一方、学校要因の影響は確認できなかった。他方、同GNI/Capitaが560USDのインドネシアにおいては、学校要因、家庭要因は学力に対して同程度の影響力をもつことが確認された。本研究の仮説では、GNI/Capitaが1,000USD前後を境に、それ以上の国では家庭要因の、それ以下の国では学校要因の学力への影響力が大きいと想定しており、タイは仮説に沿う結果に、インドネシアは仮説に一部反する結果になった。この理由として、アジア通貨危機の影響により、インドネシアのGNI/Capitaが1996年の1,090USDから1,100USD(1997)、660USD(1998)、570USD(1999)、560USD(2000)と短期間に大きく変動したことが考えられる。一般に、教育水準は短期間で急に変わるものではない。よって、仮説の経済水準の境目である1,000USD(≒通貨危機前の水準)に近い傾向:学校要因、家庭要因両方の影響力が確認されたのではないかと推察する。ただし、正確には更なる事例の検証が必要であり、今後の課題としたい。2016年11月、本研究結果を国際開発学会大会で発表した。 加えて、タイおよびインドネシアにおいて、PISA2000参加世代40-50人に対して学力に影響を与える要因についてインタビュー調査を行った。その結果、家庭要因を挙げた人がごく少数いたものの、両国とも多くは本人次第と回答し、次がある場合は学校要因を挙げており、家庭要因の学力への影響力の認識は低いことがわかった。
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