研究課題/領域番号 |
26381311
|
研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
藤野 博 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (00248270)
|
研究分担者 |
熊谷 晋一郎 東京大学, 先端科学技術研究センター, 准教授 (00574659)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 自閉症スペクトラム障害 / 心の理論 / 言語 / 実行機能 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、定型発達(TD)児36名、自閉症スペクトラム障害児(ASD)児44名の計80名に対し、3つの種類の心の理論課題を実施した。(1)平成26年度と同様の2種類の誤信念課題(場所置き換え課題と中身すり替え課題)と二次誤信念課題。(2)言語による質問応答を媒介にしない視線で反応を測定する潜在的誤信念課題。(3)幾何図形が動くアニメーションを提示し、それを表現させ、擬人化傾向を評価することで心的状態の帰属の程度を測定する課題。 平成27年度に行った分析と得られた知見は以下の通りである。明示的および潜在的な誤信念課題を実施し、各課題の反応・成績についてTD群とASD群を比較し分析した。潜在的誤信念課題においては、明示的誤信念課題と似たストーリーの映像を見せ、誤信念に基づく行動を予測する視線の動きをするか測定した。その結果、潜在的誤信念課題では、TD群もASD群も正反応は少数でありランダム反応が多く、TD群、ASD群ともに心の読み取りそのものを自発的にはしていない児童が多いことが示唆された。しかし、ASD群はTD群に比べ誤反応が多く、ASD群はTD群とは異なり、自発的に誤った心の読み取りをしている可能性が推察された。 また、幾何図形アニメーション表現課題を実施し、擬人化すなわち心的状態を帰属させる傾向とその発達についてASD群とTD群の反応を比較し検討した。ASD群、TD群ともに図形の動きの違いが心的状態の帰属の程度に影響していることが明らかとなった。また、ASD児は低学年にではTD児に比べ有意に擬人化が少なかったが、高学年になるとTD児と差がなくなった。誤信念理解と同じく擬人化においても高機能ASD児は小学校高学年で可能になることが示唆された。 平成27年度はさらに、平成26年度に収集したデータで、心の理論、言語力、実行機能の関係について分析を行い、論文化した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、定型発達(TD)児36名、自閉症スペクトラム障害児(ASD)児44名の計80名に当初予定していた課題を実施できた。また昨年度に課題になっていた心の理論課題と実行機能課題の成績との関連についても、言語力との関連も含めて分析し、国際学会で成果を発表し、論文にすることができた。以上より、年度当初の計画通りに研究を遂行できたといえ「おおむね順調に進展している」と評価した。 あえて課題を挙げるなら、得られた結果が一部予想と異なっていたことである。具体的には、視線で反応を測定する潜在的誤信念課題では、ASD児のみならずTD児でもランダム反応が多く、両群間の正反応における差は認められなかったが、これは先行研究の知見と一致しない。先行研究への反証データとなる新たな知見が得られた可能性がある一方で、実験手続きに問題があったことも考えられる。計画した研究そのものの遅延や未実施の問題ではないが、次年度の研究計画を立てるうえで検討されるべき方法上の課題となった。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の仮説とは異なり、潜在的誤信念課題で正反応を示すASD児も少数ながらみられた。そのようなASD児にはどのような特徴があるかが今後の重要な研究課題になると考えられた。潜在的誤信念課題で適切な測定ができたか、実験刺激の内容と設定は妥当か、測定は正確に行えたか、といった研究手続き上の問題を検討するとともに、さらに多数のデータから検証する必要がある。また幾何図形アニメーション表現課題はフィクショナル・ナラティブと心の理論の2つに関係する反応を引き出し得るものとしての可能性が示唆された。課題の種類を増やして実施し、刺激のタイプと言語表現における擬人化傾向の程度の関係を検討したい。平成28年度は以上の検討とデータ収集を行う予定である。また、言語とともに心の理論に関係することが検証された実行機能のうちプランニングを測定する「ハノイの塔」課題も実施する。平成28年度は以上のデータを取得するとともに、3年間の研究期間を通じて取得した全データの分析を行い、心の理論、言語、実行機能の関係について総合的に考察する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
残額は「消耗品」と「その他」として計上した予算を研究に必要不可欠な支出以外に使い切らなかった分である。来年度にも今年度と同じ規模で研究協力をしてもらえる見込みが得られたので、その謝金分を確保するため、次年度分への繰り越しを計画して行った。
|
次年度使用額の使用計画 |
本研究を開始した平成26年度当初の計画よりも、平成28年度に研究協力してもらえる子どもの数が増えたため、平成27年度に使い切らなかった額は、その増加分の謝金として執行する予定である。
|