平成28年度は定型発達(TD)児53名、自閉症スペクトラム障害(ASD)児27名の計80名に対し、平成27年度に引き続き、明示的および潜在的誤信念課題を実施した。ASD児は言語指示によらない潜在的信念課題では誤信念の予測を行なわないことが明らかとなった。そして明示的誤信念課題の通過には言語力が関与すること、潜在的誤信念課題の通過とは関連しないことが明らかとなり、ASDにおいて心の理論はTD児とは異なるメカニズムで獲得されることが示唆された。 また、平成27年度までに取得したデータを分析し「言語的命題化は自閉スペクトラム症児の誤信念理解を促進するか?:介入実験による検証」という題名の論文にして発達心理学研究に投稿し採択された。論文の要旨は以下の通りである。 ASDの児童における誤信念理解への言語的命題手がかりの促進効果について検討し,言語力の観点から考察した。参加児は6歳から12歳までの54名の児童であった。介入前のベースライン条件における誤信念課題には25名が通過し,その語彙年齢(VA)の平均は9歳9ヵ月であった。通過しなかった29名に対し別な誤信念課題を実施した。信念質問の前に「見ることは知ること」の原理を言語的命題として提示することを介入として行った。そして介入条件を通過した8名の児童に対し,般化を確認するためのさらに別な誤信念課題を実施した。また,すべての課題で答えの理由について質問した。般化確認条件を通過した児童は4名であり,うち2名は答えの理由として知覚と知識の関係に言及していた。彼らのVAは10歳11ヵ月と10歳4ヵ月であり,他の2名は8歳10ヵ月と8歳7ヵ月であった。これらの結果は,言語的命題化はVAが9歳頃のASD児の誤信念理解を促進することを示唆する。そしてVAが10歳を超えると,言語的命題化によって誤信念の理解と般化が可能になると考えられた。
|