研究課題
平成26年度は、すばる望遠鏡近赤外線広視野分光器MOIRCS用の面分光ユニットの製作、および面分光観測の対象天体となる、星形成活動と活動銀河中心核の混在する銀河選定のためのデータ解析を進めた。面分光ユニットについては、光学素子を保持するためのホルダーを岩手大学の高度試作加工センターにおいて製作した。製作したホルダーは素子を取り付け、国立天文台先端技術センターに設置した冷却実験用真空容器を用いて観測使用時と同程度の約90Kにまで冷却し、安定性を確認する試験を行った。その結果、マイクロレンズアレイやミラーなどの素子を、損傷を与えることなく、安定して保持できることを確認した。また、拡大レンズホルダー内のレンズの位置ずれは、ホルダーの材料であるアルミとレンズ材の間の熱膨張率の違いによって予想される程度であり、光学系の性能に大きな影響を与えないものに収まっていることを確かめた。全てのホルダーが完成し、実験室においてユニットの組み立て・調整を始めた。観測対象天体選定のためのデータ解析については、すばる望遠鏡主焦点カメラや赤外天文衛星あかり等で取得した北黄極領域の可視光から中間赤外線までの多波長測光データに、ハーシェル宇宙望遠鏡、チャンドラ衛星による遠赤外線、X線のデータを加え、SED解析による赤外線銀河の星形成活動と活動銀河中心核の分離を行った。その際、SEDフィッティングに用いるテンプレートモデルの数を前年度までの解析よりも増やすともに、活動銀河核寄与の割合のエラーの見積もりの検討も行い、より信頼性の高い活動性の分離を試みた。このように活動性を分離した赤外線銀河のサンプルについて、赤外線放射における活動銀河核寄与とX線光度の比較から、活動銀河核が支配的な赤方偏移~1の銀河のうち、およそ30%がコンプトン厚活動銀河核候補であることがわかった。
3: やや遅れている
面分光ユニットに関してはすべての部品が完成し、部品単体での冷却試験を終えて、ユニット全体の組み立てまで進んだものの、当初26年度に予定していたユニット全体の冷却試験についてのみ27年度に行うことになった。これは、冷却試験装置の不具合により、部品単体での冷却試験に予定よりも時間がかかったためである。観測対象天体選定のためのデータ解析については当初の予定どおりおおむね順調に進んでいる。
26年度中に明らかになった冷却試験装置の不具合はこれまでにその原因がほぼ特定できたので、27年度の早い段階で国立天文台先端技術センターにおいてユニット全体の冷却試験を行い、面分光ユニットを完成させる。MOIRCSの焦点部改修が済み次第、ユニットをMOIRCSに挿入できるように、27年度中にはハワイ観測所へ面分光ユニットを送り、連携研究者と協力してハワイ観測所での最終試験を行う予定である。MOIRCSでの試験観測で対象とする予定の星形成活動と活動銀河中心核の混在する銀河の選定については、現在新たに電波干渉計(VLA)による電波連続光データも加え、さらに多角的な解析を進めている。限られたサンプルで有効な結果が得られるよう、アフトフロー現象などが期待できる銀河を注意深く選定する。当初27年度に予定していたMOIRCSでの試験観測がやや遅れる可能性があることから、MOIRCS面分光モード以外のすばる望遠鏡観測装置や他の望遠鏡での観測計画の立案・提案も随時進めていく。
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Monthly Notices of the Royal Astronomical Society
巻: 446 ページ: 911-931
10.1093/mnras/stu2010