研究課題/領域番号 |
26410002
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
庄司 光男 筑波大学, 数理物質系, 助教 (00593550)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | トレオニン合成酵素 / 反応機構 / 反応制御機構 / 副反応経路 / QM/MM / molecular dynamics (MD) / 自由エネルギー / スーパーコンピュータ |
研究実績の概要 |
トレオニン合成酵素:Threonine Synthase(ThrS)は特徴的な補欠分子族(ピリドキサールリン酸;PLP)を有し、複雑な反応を触媒している。ThrSは特に位置特異的かつ立体選択的な反応を制御しており、優れた酵素機能が備わっている。ThrSの酵素反応機構の解明は極めて重要であるが、未だ分子メカニズムは明らかになっていなかった。 ThrSの酵素反応機構を解明するために、量子古典混合計算法(QM/MM)と分子動力学法(MD)による理論解析を行った。QM/MM計算により、全サイクルの後半の反応機構が解明された。また、阻害剤による副反応の反応機構も明らかにする事ができた。MD法を用いて生成中間体の室温での安定性(構造と自由エネルギー差での評価)を評価した。その結果、PLPのコンフォメーションが中間状態ごとに異なっており、反応を促進する構造を取っている事が明らかになった。これらは酵素の優れた反応効率と反応制御メカニズムを示唆しており、極めて重要な結果と考えられる。また、QM/MM法だけではこれらは明らかにすることができないため、理論解析でMD法を併用することの重要性が示された。QM/MM法は大変コストがかかる手法である。そのため、スーパーコンピュータ(SC)を利用したとしてもできる限り効率的に利用する事が必要である。我々は初期電子密度生成法を考察し、必要なプログラムを作成した。それによりSC利用が劇的に進展した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究で開発した方法を用いる事で、複雑な反応機構を持つ酵素反応機構を容易に解析できるようになり、計画以上の成果を上げる事ができた。光化学系II(PSII)における水分解反応、アプラタキシンにおけるDNA加水分解反応についても同様に理論解析を実施した。また、PSIIについてはモデル錯体の構造と電子状態解析をおこない、天然系と詳細に比較した。独自の電子状態解析法を用いて、補因子の持つ特徴的構造ゆがみを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
QM/MM法で高精度に反応機構を解明するためには大きなQM領域を持つ大規模計算の実施が不可欠であるが、1点計算の計算量の増加だけでなく構造自由度や不確定要素(水、プロトン化、イオン)が増えるために急激に取り扱いが難しくなる。しかしながら、酵素での反応を正確に理論解明するには大規模計算が不可欠であるため、スーパーコンピュータをより効率的に利用できる方法を開発していく。これまでにいくつもの方法(Generalized spin projection, Localized Natural orbital, Divide & conquer based initial guess formation)を提案し、その有用性を実証してきた。今後もこれら独自の方法を開発及び整備していく。また、本研究課題を通じて、静的な反応機構解析だけでなく、動的な解析も極めて有用である事を痛感した。今後、QM/MM-MDの適用と、QM/MMとMD計算との連携を図り、より正確な反応機構解析をできるようにする。特に電子移動やプロトン移動が関連する反応は取り扱いが難しく、これまでに正確な解析がなされてきていない。そのような過程でも十分解析できるようにし、酵素反応に関わる全反応を高精度に取り扱い、酵素反応という複雑多自由度系での理論解析方法を早期に確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文出版費、学会出席等成果報告のために利用する予定であった予算であったが、2015年度に論文投稿費用がかかる論文誌に採択されなかったため
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次年度使用額の使用計画 |
無理して2015年度中に他の項目で流用しないで、予算を繰り越し、計画通り2016年に良い雑誌に投稿するために利用する。
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