研究実績の概要 |
トレオニン合成酵素(ThrS)は特別な補欠分子族(ピリドキサールリン酸(PLP))を有し、アミノ酸合成に関わる様々な反応を触媒している。ThrSはPLP酵素の中でも、多くの位置選択的かつ立体選択的反応を触媒しているため、その反応機構の解明は優れた酵素反応機構を理解するための絶好の機会となっている。ThrSで報告されている生成物支援機構は環境に応じて酵素反応を変化させることが可能であり、酵素触媒の持つ高次機能の最たるものの一つである。しかしながら、その分子論的メカニズムは未だ明らかになっていなかった。 そのため、量子古典混合計算法(QM/MM法)と古典分子動力学法(CMD)を用いて、網羅的にThrSの反応機構を詳細に理論解明する事を試みた。特に、スーパーコンピュータ(HA-PACS, COMA)を利用することで長時間(3micro sec)CMDを実行し、反応選択性に重要な蛋白質基質間相互作用の構造解析や自由エネルギー解析を十分な精度で議論する事ができた。 本研究により、反応中間体ごとに活性中心(PLP, Water, アミノ酸側鎖)のコンフォメーションが異なっていることを明らかにした。さらに、生成物支援機構に重要な陰イオン(HPO42-)を(SO42-に)変えるによっても、構造変化が見られ、自由エネルギー差も実験値と極めて良い一致を示した。これらにより、酵素では反応中間体毎に反応に適した構造を取るように精密に構造制御がなされていることが示された。これらの結果はThrSにおける高い反応効率の仕組みと反応制御メカニズムを解明したのみならず、普遍的酵素反応の仕組みや酵素機能改変にも有益な示唆を与えた。 研究成果の一部は現在論文審査中である(2017年3月28日投稿)。
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