研究課題/領域番号 |
26420210
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
大久保 俊文 東洋大学, 理工学部, 教授 (60349933)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | TAS / マイクロ流路 / 光導波路 / FDTD 法 / BPM法 / 前方散乱光 / 側方散乱光 / 蛍光検出 |
研究実績の概要 |
本研究の狙いは、十数mm角のチップ上に形成した細胞サイズの断面寸法を有する流路に検体を流し、種々の物理刺激を与えたりあるいは化学反応を発現させることで、細胞の生理情報を採取するシステム(総合分析システム:TAS)構築に資する基盤技術を開発することにある。本研究の特長は、分析光の伝搬通路となる導波路を、流路周辺と同一材料によって一体構成とすることにより、光学測定を旨とする大型分析器であるフローサイトメータと同等の機能を、チップ上に凝縮して実現しようとすることにある。 本助成の一期前の研究課題においては、L字流路と光導波路とを組み合わせ、細胞への光照射による前方および側方への散乱変調光を、チップ「面内」に限定して検出する技術を確立した。 本助成期間の初年度においては、これまでに設計・試作した高アスペクト比の導波路コア(高さが幅の約1.5倍)を有するTASチップを用い、フローサイトメータではすでに一般的である蛍光物質を付着した微粒子の極微な前方および側方発生蛍光を、チップ面内に限定して光ファイバで収集するとともに、小型の光電子増倍管モジュールによって高感度に検出した。さらに本期の最終目的である細胞への蛍光励起光を、その全周囲にわたって照射角走査を行うことで指向特性を得る第一歩として、小型の積層型ピエゾアクチュエータをベースに、細径化した光ファイバを強制加振する光スキャナを設計・試作した。ここでは励起用光をチップに導入する光ファイバを加振することで、10~20μmおきにチップ上に並列配置した導波路に短時間レーザ光を導入し、微粒子からパルス照射に伴う蛍光応答を採取する。現在、通常の側方散乱励起光の応答を確認しつつあり、近々には蛍光微粒子を用いた蛍光応答の検証と評価に進む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の進捗は、おおむね順調としたが、個別課題ごとには以下のように考える。 予想以上に進展したのは、微粒子からの蛍光計測である。基本計画にはこの技術確立は強く謳っていないが、フローサイトメータではこれが主機能となっているなど、蛍光計測は必須である。主要部が小型チップに凝縮された光TASでは、照射光の強度増強や、検出光の効率的収集のための制約が少なくなく、導波路・流路一体型チップにおいては、面内に検出方向を限定して検出できている例はない。この点で、L字型流路や超小型ファイバ位置決め機構、超高感度PMTの採用に加え、信号波形の計測技術の進歩も相まって、前方、側方の蛍光と、側方の散乱励起光との対照がきちんと取れた成果は大きい。 一方、当該年度計画に含まれる微粒子の照射角走査のためのスキャナについては、小型で支持剛性の高い積層型圧電素子を選択するとともに、細径化光ファイバを強制加振する方法に基づいて試作を進め、基礎特性を確認できるまでに至った。蛍光応答は今後となるが、本方式による側方散乱励起光の検出までは確認した。 最後に、超平坦(低アスペクト)の導波路を用い、粒子を粒子リフターにより斜方流動をさせることで、実効垂直方向に粒子を送りつつ、粒子周縁を角度走査する当初案は、極薄導波路の作製課題に加え、リフターの位置精度確保も困難なことから、より歩留まりが確保できる代替案に切り替える。代替案は、従来通り横送り(通常の水平流れ)を基本とし、送り方向の空間分解能を高めるために、導波路コアを高アスペクト化する。当初案よりも細胞(粒子)送り時の「光の刃厚」は厚くならざるを得ないが、作製プロセスにおいて連成課題が大幅に減り、精度マージンを広げることができるので、試作時の歩留まりは期待できる
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今後の研究の推進方策 |
当初計画において発想した極薄導波路を(チップ面内に)放射状に対向配置させて、粒子をこの収束点においてコアの厚み方向に横断させることで光角度走査と同時に送り走査を行う案は、進歩性や達成機能としては極めて魅力的である。しかし必要な作製プロセスにおいては、流路+極薄導波路(コア)作製と、粒子を所定の軌跡をもって斜め流動させる粒子リフターの作製という二重に高精度な加工プロセスを経る必要があることから、複数の課題を並列的にクリアするための事前検討に多くの時間と費用を要することが判明してきた。このため、粒子に対する全周囲角度走査(実際には270°程度)は堅持することとし、次年度に向けて放射状に配置したコアを有する導波路チップの設計と試作は進める。一方、粒子の送り(移動)については、斜めもしくは垂直とする当初案から、面内(水平)とすることで、加工プロセス負担を軽減しつつ、角度走査の基礎データの採取をほぼ当初計画に沿って実現し、新たな知見が早期に得られるように研究を推進していく。なお、設計・試作を行う導波路「コア」については、送り方向の空間分解能をでるだけ確保する観点から、可能な範囲でアスペクト比(高さ/幅)を高く設定する。
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