キラルなポリオキソメタレート(POM)のエナンチオマーの合成技術および分離技術を確立することが本研究の目的である。POMとはタングステンやモリブデンを主成分とするアニオン性酸化物分子であり、触媒材料やセンサー材料として重要であり、このPOMのエナンチオマーを得ることができれば、様々な化合物のエナンチオマーセンサーおよびエナンチオ選択的な触媒への応用が期待できる。 キラルなPOMとしては、1つのルテニウムが置換したドーソン型リンタングステートのアルファ1型異性体、K7[alpha1-P2W17O61Ru(H2O)]、を研究題材として選択している。研究期間の初年度平成26年度に、K7[alpha1-P2W17O61Ru(H2O)]の合成および精製法を確立した。平成27年度にこの化合物中のルテニウムにキラルなアミノ酸であるL-システインまたはL-ヒスチジンを結合させ、ジアステレオマーとした化合物を合成し、液体クロマトグラフィーによる分離を試みたが分離には至らなかった。平成28年度には、再結晶法による分離を試みたが分離には至らなかった。 更に、平成26年度にK7[alpha1-P2W17O61Ru(H2O)]の合成法を検討している際に原料である1欠損ドーソン型リンタングステートのアルファ1型異性体とアルファ2型異性体が水溶液中で異性化していることが明らかとなった。平成27年度にはこの1欠損化合物はpH5弱の溶液中リチウムカチオンの存在で安定性が増すことを見出した。これによりK7[alpha1-P2W17O61Ru(H2O)]がより合成が容易な1欠損ドーソン型リンタングステートのアルファ2型異性体から合成できることが明らかに出来た。更に、平成28年度にはこの方法を他の遷移金属であるZn置換体にも適応できることを明らかにした。
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