カンナビノイド系はさまざまな脳機能に関与している。本研究では、培養海馬ニューロンを用い、内因性カンナビノイドおよび関連脂質メディエータの働きを明らかにすることを目指した。本年度はCB1受容体を介してネットワーク活動を維持するメカニズムを電気生理学的方法にて検討した。また、動物行動実験にて内因性カンナビノイド2-AGの運動学習における役割を調べた。得られた結果は以下の通りである。 (1)CB1受容体アンタゴニストであるAM281とNESSを用い、ネットワーク活動に及ぼす影響を調べた。逆アゴニスト作用を有するAM281処理の場合は、ネットワーク活動の低下がみられたのに対し、逆アゴニスト作用を有しないNESSの場合は、ネットワーク活動はむしろ高まる傾向がみられた。したがって、CB1受容体の基礎的活性がネットワーク活動の維持に関与すると考えられた。 (2)AM281の効果における抑制系(GABA)およびIhチャネルの関与について調べた。AM281の急性投与の効果は,GABAA受容体阻害剤で消失することから、ネットワーク活動の低下は抑制系の促進が原因であると考えられた.一方、AM281の前処理の効果は、GABAA受容体阻害剤で消失しないことから、興奮系(グルタミン酸)の低下も関与すると考えられた。また、Ihチャネル阻害剤の急性投与はネットワーク活動に影響を及ぼさなかったことから、AM281の急性投与の効果はIhチャネルを介さないと考えられた。 (3)2-AG合成酵素欠損マウスのレバー押し行動を調べたところ、CB1受容体欠損マウスと同様に、環境の変化に対応して行動を変える柔軟性が低下していることが示唆された。 以上より、CB1受容体や内因性カンナビノイドが、神経ネットワーク活動の調節や行動の柔軟性に関与していることが明らかとなった。
|