研究課題/領域番号 |
26430076
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
児島 伸彦 東洋大学, 生命科学部, 教授 (80215251)
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研究分担者 |
遠藤 昌吾 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター, 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究部長 (60192514)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 転写調節因子 / 最初期遺伝子 / PC12細胞 / 海馬ニューロン / 樹状突起スパイン / シナプス可塑性 |
研究実績の概要 |
本研究では、転写調節因子ICERの情動記憶の固定化の調節メカニズムを明らかにすることを目指し、その標的遺伝子をゲノムワイドに検索し同定し、記憶素子としての樹状突起スパインの構造可塑性との関連を調べることを目的とする。これにより核―樹状突起スパイン間の情報伝達のしくみを明らかにする。平成26年度は、(1) 海馬神経細胞へのICER過剰発現が細胞形態およびシナプス形態に及ぼす影響を調べた。また、(2) PC12細胞をモデル系としてICERの過剰発現による遺伝子発現調節変化を調べた。 (1) ICERを恒常的に発現するPC12細胞でNGFあるいはジブチリルcAMPによる突起伸長に対するICERの過剰発現の効果を調べたところ、有意に伸長の初期応答が早まることが観察された。次に、海馬細胞由来のHT-22細胞にICERを一過性に導入すると、有意に長い突起を持つ細胞が増加した。また、突起数も有意に多いこともわかった。このことは、ICERの過剰発現がこれら神経細胞のモデル細胞の突起伸長に影響することを意味する。さらに、マウス海馬初代培養ニューロンにICERを一過性に発現させたところ、樹状突起スパインの密度は減り、その構成タンパクであるドレブリンのクラスター数も有意に減少した。したがって、ICER過剰発現は樹状突起スパインの形態形成に影響することがわかった。 (2) ICERの標的遺伝子を同定することを目的に、ICERを恒常的に発現するPC12細胞で、NGF刺激で変動する遺伝子(c-fos、Arc、Egr1)の発現量をRT-PCRにより調べ野生型細胞と比較した。その結果、Arcの定常時およびNGF刺激時の発現量がICERの恒常的発現細胞で有意に低いことが分かり、ArcがICERの下流で制御されている可能性が示唆された。一方、c-fos、Egr1の発現には顕著な差は見出されず、ICERがこれらの遺伝子の発現を制御しているか断定できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
諸事情により、当初計画していた以下の実施ができなかった。 (1) 抗ICER特異抗体を用いたクロマチン免疫沈降の至適条件を決定すること。 ICERを恒常的に発現するPC12細胞を用いて、ホルムアルデヒドによりタンパク質とクロスリンクしたDNA(クロマチン)を酵素処理することにより断片化を試みたが、実験例に示されているような150-900 bpの範囲でのラダー状断片とはならず、150 bpを中心としたスメア状断片となった。これは酵素処理あるいはその後の超音波破砕の条件が強過ぎたことにより、DNAが壊れてしまったものと考えられた。そのため、26年度は次の実験段階である抗体による免疫沈降のステップに進むことを断念した。 (2) 恐怖条件づけしたICER過剰発現マウスの海馬で抗ICER特異抗体を用いたクロマチン免疫沈降を行い、ICERの結合する下流遺伝子を同定すること。 ICER過剰発現マウスは研究分担者(東京都健康長寿医療センター 遠藤昌吾)の所属機関にて保管されているが、その大部分は凍結卵の状態で保管されているため、生きた個体を実験に使用できるだけの匹数を確保することができず、26年度は使用できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
まず、26年度に得られた研究結果に基づき、さらに以下の検討を進める。 (1) ICERの強制発現による海馬ニューロン樹状突起スパインの形態変化の解析。ICER導入からスパインの形態変化に至る時間経過を検討する。また、スパイン内に局在する分子の動態を免疫細胞染色でみることにより、形態変化との関連を調べる。(2) ICERの標的遺伝子の発現プロファイリング。ICERの恒常的発現PC12細胞において見つかったICER標的遺伝子候補Arcについて、PC12細胞および海馬ニューロンにおける詳細な発現プロファイリングを行う。 また、平成26年度には実施できなかった以下の項目の実現に向けて鋭意検討を行う。 (3) ICERのクロマチン免疫沈降。ICERの標的遺伝子を網羅的に探索するためには、クロマチン免疫沈降法が有効であるので、昨年度断念したクロマチン断片化について、ヌクレアーゼ処理および超音波処理の最適化を ICERの恒常的発現PC12細胞を用いて再度試みる。 (4) ICER遺伝子組換えマウスを用いた研究。ICER過剰発現マウスを研究代表者の研究施設(東洋大学板倉キャンパス動物飼養施設)に搬入し、これらのマウス脳を用いて(3)で至適化された条件でクロマチン免疫沈降を試みる。定常状態で、過剰発現したICERが結合するDNA断片を単離し、これを次世代シークエンサー(共同研究者の研究機関のものを使用)により配列決定を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度に計画していた研究のうち、クロマチン免疫沈降法および遺伝子改変マウスを用いた研究の実施ができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度で前年度にできなかった、クロマチン免疫沈降の至適条件の検討と申請者の研究機関に遺伝子改変マウスを導入するためのマウス胚操作を実施する。
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