研究課題
強力な癌免疫療法の開発のために、強い抗腫瘍活性を有する癌抗原特異的CD8陽性キラーT細胞(CTL)ならびにCD4陽性ヘルパーT細胞(Th細胞)をメモリーT細胞として誘導することが求められている。本研究では、我々が同定した新規メモリーT細胞制御遺伝子である遺伝子#10(特許出願中のため仮称)改変マウスにおける癌抗原特異的T細胞を詳細に解析すること、および遺伝子#10が制御するメモリーT細胞形成メカニズムを活用したT細胞の「質」を向上させる新しい癌免疫療法の開発へ向けた研究基盤を確立することを目標としている。平成26年度では、遺伝子#10をタモキシフェン誘導性に全身の細胞で欠損するマウスを解析した。遺伝子#10の欠失は胎生致死を引き起こす事が知られていたが、今回我々は、生後6-8週のマウスにタモキシフェンを投与し遺伝子#10を欠失させても、マウスの生育に障害は認められず、また組織学的解析においても異常は認められなかった。この事実は、T細胞の免疫応答を改善させるための戦略として、遺伝子#10酵素活性が標的となることを安全面から支持するものであった。実際に、遺伝子#10酵素活性を抑制する阻害剤の候補化合物を同定した。この候補化合物をヒトT細胞培養系に添加する事でメモリーT細胞が増加することを確認した。さらに、これらの阻害剤候補化合物をマウスに投与した後にリステリア菌感染症モデルを用いて、メモリーT細胞の形成を評価したところ、対照群に比較して阻害剤候補化合物を投与した群において、メモリーT細胞が高く誘導されることが示唆された。さらに、遺伝子#10によって制御されるシグナルパスウェイを抑制する化合物によって誘導されたメモリーT細胞フェノタイプを示すWT1特異的T細胞を癌細胞を移植したNOGマウスに輸注することで、T細胞の顕著な増殖に伴うマウスの生存延長が認められた。
2: おおむね順調に進展している
遺伝子#10欠損T細胞の腫瘍免疫における働きについては、評価できておらず、遅れもある。しかしながら、想定以上に阻害剤の同定が進んでいる。全体としては、ほぼ順調と考える。
LacZノックインマウスを用いた遺伝子#10の時空間的な発現の理解遺伝子#10によって生成される物質によってT細胞はエフェクターT細胞に分化が亢進し機能が低下することを、これまでの我々の研究によって明らかにした。ここから、遺伝子#10の持続的な発現はT細胞の機能低下を誘導すると推察される。したがって、抗原が持続的に存在する腫瘍免疫において、この遺伝子#10の発現がT細胞の機能低下・疲弊の原因となっていることが考えられる。そこで、先行研究で作製した遺伝子#10プロモーターによって発現が制御されるようにレポーター遺伝子としてLacZが挿入されているノックインマウスを用いて、担癌マウスにおける遺伝子#10の発現を時空間的に解析する。腫瘍免疫における遺伝子#10欠損T細胞の解析これまでに遺伝子#10欠損T細胞がメモリーT細胞を形成しやすいことを明らかにしてきた。最近の報告でT細胞輸注療法などの癌免疫療法において、分化が進んだエフェクターT細胞よりも未分化なメモリーT細胞のほうが強い抗腫瘍効果が期待できることが明らかとなっている。これらの知見から、我々が作製したT細胞で遺伝子#10を欠損するコンディショナルノックアウトマウスにおいて、野生型マウスと比較してT細胞の強い抗腫瘍活性が認められると予想する。そこで、遺伝子#10コンディショナルノックアウトマウスおよび野生型マウスに癌細胞を移植して腫瘍の増大を観察するとともに、遺伝子#10欠損T細胞が担癌マウスにおいてどのように増殖・活性化するのか詳細に解析する。
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Cancer Immunology Immunotherapy
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10.1007/s00262-015-1683-7
Anticancer Research
巻: 35 ページ: 1251-1261