研究課題
強力な癌免疫療法の開発のために、強い抗腫瘍活性を有する癌抗原特異的CD8陽性キラーT細胞(CTL)ならびにCD4陽性ヘルパーT細胞(Th細胞)をメモリーT細胞として誘導することが求められている。本研究では、我々が同定した新規メモリーT細胞制御遺伝子である遺伝子#10(特許出願中のため仮称)改変マウスにおける癌抗原特異的T細胞を詳細に解析すること、および遺伝子#10が制御するメモリーT細胞形成メカニズムを活用したT細胞の「質」を向上させる新しい癌免疫療法の開発へ向けた研究基盤を確立することを目標としている。平成27年度では、遺伝子#10をタモキシフェン誘導性に全身の細胞で欠損させても、マウスの成育および組織に異常が認められないことより、T細胞の免疫応答を改善させるための戦略として、遺伝子#10酵素活性阻害剤が安全面からも実現可能であると考え、平成26年度に引き続き、遺伝子#10酵素活性阻害剤の開発を進めた。新たに同定した化合物Aは、これまで同定していたものと比較して高い阻害活性を示した。また、EG7癌細胞株を移植し、腫瘍塊が形成されたマウスにOT-I細胞とともに化合物Aを投与すると、完全に腫瘍が退縮した。しかしながら、コントロールの化合物を投与されたマウスの腫瘍塊は増大し退縮することはなかった。また、この化合物Aは、毒性が認められたため、化合物Aを改変することにより毒性の少ない化合物B、C、Dを創出することに成功した。この化合物B、C、Dは、in vitroでヒトメモリーT細胞の誘導を促進させた。
2: おおむね順調に進展している
順調に遺伝子#10酵素活性の阻害剤を創出できており、実際に、期待通りの薬効を確認することが出来ている。
遺伝子#10酵素活性阻害剤の開発と抗腫瘍免疫応答の増強平成27年度では、新たな遺伝子#10酵素活性阻害剤の候補化合物A-Dを開発した。しかしながら、これらの化合物の遺伝子#10酵素活性の抑制効果は40%-60%程度であり、さらに抑制効果を高めた化合物の探索・開発が期待される。したがって、平成28年度は、平成27年度に引き続き、遺伝子#10酵素活性阻害剤の開発に焦点をあてる。また、候補化合物の抗腫瘍効果を、腫瘍塊の退縮にのみ注目するのではなく、どのような過程を経て、その結果に至ったかについても、詳細に検討していく。すなわち、化合物投与によって、実際にメモリーT細胞の誘導が亢進しているか、「質」のいい免疫応答が惹起できているかを、リステリア感染症モデルおよび腫瘍移植モデルを用いて検証していく。さらに、遺伝子#10によって生成される物質によってT細胞はエフェクターT細胞に分化が亢進し機能が低下することを、これまでの我々の研究によって明らかにしており、遺伝子#10の持続的な発現はT細胞の機能低下を誘導すると推察される。したがって、抗原が持続的に存在する腫瘍免疫において、この遺伝子#10の発現がT細胞の機能低下・疲弊の原因となっていることが考えられる。この点においても、遺伝子#10酵素活性阻害剤の投与により、腫瘍局所におけるT細胞の機能・疲弊が改善されるか検討していく。
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