研究課題
臨床試験を施行するまで有用性の評価が難しいペプチドワクチン開発の基礎研究から臨床応用までの過程を検証可能にするため、同一宿主(症例)の免疫系と腫瘍を生着させた自家免疫療法マウスモデルを作成することを目的とし、まず高度免疫不全であるMHC ダブルノックアウトNOGマウス(NOG-IA-beta, beta2m double KO)に悪性グリオーマ患者由来の癌細胞の移植を行った。初代培養細胞株20株については3か月以上を経過して腫瘍の増大を確認できた症例が存在しなかったが、無血清培地を用い誘導した3種のがん性幹細胞株(GB-SCC010、GB-SCC026、GB-SCC028)については脳内移植による造腫瘍性が確認された。今後これらの幹細胞株と患者末梢血細胞の移植を施行する予定である。また、市販のU87グリオーマ細胞株と患者末梢血リンパ球の同時移植では腸間膜リンパ節の形成、及び脾臓の腫大が確認された。患者癌細胞の変異エピトープ解析に先立ち、7種の市販グリオーマ細胞株についてIon Protonシーケンサーを用いエキソーム解析をおこなった。COSMICに登録された変異データとの比較では、平均で2倍弱ほどの体細胞変異が検出され、共通して検出された変異は28%~66%程度であった。2株につき、がん関連遺伝子の変異に絞って細胞障害性T細胞のターゲットとなりうる変異エピトープをNetMHC3.4サーバーを用いて予測したところ、各々2つの候補エピトープを見つけることができた。
2: おおむね順調に進展している
初代培養株では移植後の増殖が遅く使用には適さなかったが、幹細胞化した物では良好な生着が見られた。また、癌細胞の遺伝子変異、及び遺伝子発現の検出のための予備実験では変異エピトープや癌精巣抗原の検出に成功している。
マウスへの癌細胞の移植には初代培養株を用いることを想定していたが移植後の増殖能力が低いため、幹細胞化した癌細胞株の移植を実験の軸にするとともに、併せて凍結保存した癌組織細胞を直接移植することも検討する。発現解析により悪性グリオーマ株に高頻度に発現していた癌精巣抗原、特にCASC5抗原由来のHLA-A24拘束性ペプチドと陽性コントロールとしてサイトメガロウイルス由来のペプチドを、移植癌細胞同一症例由来PBMCの培養にて得られた活性型樹状細胞にとりこませ、各グループ2匹のマウスに移植後4週、5週に皮下投与を行う。7週にマウスの脾臓よりヒトT細胞を回収し、ペプチド処理したT2-A24細胞との共培養にて上清に産生されたIFN-gamma量をELISAにて測定する。合わせてワクチンの腫瘍に対する縮小効果を評価する。エキソーム解析および発現解析により検出された癌変異抗原はその免疫原性を実験的に検証するためには数が多すぎるため、がん関連遺伝子に絞って優先的に検証することを考えているが、患者癌細胞を用いた検証の前に先行してU87細胞を用いた予備実験を行う予定にしている。次年度は腫瘍免疫応答の検証実験が主体となるため、樹状細胞および悪性グリオーマ幹細胞の分化誘導のためのGM-CSF、IL-4その他のサイトカインの購入が主な支出となり、ペプチド合成、IFN-gamma濃度測定などの費用が加わる予定である。
MHC-ダブルノックアウト‐マウスが高額であるため、供給元である実験動物中央研究所の許可のもと当事業所内で自家繁殖を行っているが、繁殖率が予想以上に低かったため、マウスを用いた実験を予定より縮小し、データ解析などの作業を優先した。
当該年度にできなかったマウスへの移植実験、樹状細胞ワクチン投与の実験を上乗せして行う予定にしている。
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Cancer Science
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