研究課題/領域番号 |
26440010
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大山 隆 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (60268513)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ヒトゲノムDNA / ゲノムフォールディング / 染色体構築 / 間期染色体 / 分裂期染色体 |
研究実績の概要 |
本研究は、ヒトのゲノムDNAが細胞核または分裂期の染色体のなかでどのような原理で折り畳まれているかを解明することを目的にしている。平成27年度は、主に以下の研究を実施した。 (1)間期21番染色体内のDNAの軌道(path)に関して、平成26年度の研究で次の点が明らかになった。多点(領域)間の距離情報(FISH解析により取得)に基づいて予測した軌道とHi-C解析による2点間の接触頻度(他のグループのデータ)を基礎とした予測軌道がほぼ一致する領域もあれば(以下、“一致領域”)、異なる領域(“不一致領域”)もある。FISH法は短距離の測定に弱く、Hi-Cは長距離の解析に弱いので、これらの弱点が予測軌道不一致の主原因であると考えられた。平成27年度は、一致領域の予測軌道の正確性をより高めることを目的として、FISH解析の精度向上に努めるとともに、距離データの追加取得を進めた。さらに、上記の弱点が原因とは考えられない領域も存在することから、その原因を明らかにすることを目的として、そのような領域の構造的・機能的特徴について解析を進めた。 (2)21番染色体内46,210,000 - 46,360,000の領域が形成するクロマチンループを対象にして、我々が出芽酵母で明らかにしたゲノムDNAの折り畳み原理(Kimura et al., J. Biochem. 154, 137- 147, 2013)がヒトでも使われているかどうかを解析した。その結果、クロマチンループのレベルでは、DNAの物性とクロマチンを収納する空間サイズが最も重要なパラメーターであることが示唆された。これは、ヒトゲノムにおいても、このレベルのクロマチンでは出芽酵母と同じDNAの折り畳み原理が使われていることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ヒトの2番、8番、21番染色体を対象にして、①間期染色体におけるDNAの軌道解析、②間期染色体の構造モデリング、および③分裂期染色体におけるDNAの軌道解析を行っている。研究の進捗状況と残りの期間を鑑みて当初の研究計画の整理を進め、平成27年度から①と②の研究を重点的に行っている。これまでに、出芽酵母で我々が明らかにしたゲノムDNAの折り畳み原理をそのままヒトのゲノムに適用することはできないことが判明していた。しかし、平成27年度の研究で、ヒトゲノムの場合も、クロマチンループのレベルでは出芽酵母と同様の折り畳み原理が使われている可能性が高いことが明らかになった。これは、当該プロジェクトにおける大きな成果である。よって、上記のように自己評価を(2)とした。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、ヒトゲノムDNAの折り畳みの態様をクロマチンループのレベルで調べると、ヒトにおいても出芽酵母と同様の折り畳み原理が使われている可能性が高いことが明らかになった。即ち、DNAの物性とクロマチンを収納する空間サイズが最も重要なパラメーターであることが示唆された。その他、クロマチンループの基部間距離も重要なパラメーターであることが判明した。このパラメーターは、クロマチンループの空間的拡がりに影響を及ぼす。クロマチンループの空間的拡がりにはこの他、クロマチンの凝縮度合いも大きな影響を及ぼすと考えられるが、我々はまだこの点を考慮した解析を行っていない。相同DNAや相同ヌクレオソームの選択的集合現象(Inoue et al., Biochemistry 46, 164-171, 2007; Nishikawa and Ohyama, Nucl. Acids Res. 41, 1544-1554, 2013)は、クロマチンの凝縮度合いを規定する重要な因子であると考えられる。そこで、今年度は、反復配列領域の相互作用を考慮に入れたモデリングを行う。さらに、平成27年度に引き続き、DNAの鎖長、GC含量、メチル化の程度と相同クロマチン領域の自己集合との関係についても解析を進める(概要の項では述べなかったが、平成27年度にこの研究に着手した)。
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次年度使用額が生じた理由 |
ウェットとドライの両面から当該研究を推進しているが、構造モデリングの研究が進展したこともあって、実験に予定していた試薬類や消耗品の支出が少なかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
主として実験用消耗品(FISH解析、DNA/ヌクレオソームの自己集合解析、原子間力顕微鏡観察などに使用)ならびに学会出張旅費などに使用する。
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