研究実績の概要 |
本研究の目的は、ヒトのゲノムDNAが細胞核または分裂期の染色体のなかでどのような原理で折り畳まれているかを解明することである。平成27年度には、出芽酵母におけるゲノムDNAの折り畳み原理(Kimura et al., J. Biochem. 154, 137- 147, 2013)をヒトに当てはめて、21番染色体内46,210,000 - 46,360,000の領域が形成するクロマチンループの構造シミュレーションを行い、ヒトにおいても酵母と同様に空間サイズとDNAの物性がDNAの折り畳みに重要であることを明らかにしていた。平成28年度は、上記の二つのパラメーターでどの程度まで正確な構造シミュレーションができるかを詳細に検討したが、それだけではまだ不十分であることが判明した。そこで、細胞内では反復配列領域がヘテロクロマチン構造をとっていることを考慮して、新たなシミュレーションを行うことにした。それに先立って反復配列の種類、位置、ならびにヌクレオソームの有無について解析をした結果、上記の領域に存在する反復配列は大部分がAlu配列(散在型の反復配列)であることと、それらの上には多くの場合ヌクレオソームが形成されていることが判明した。同じDNA配列を有するヌクレオソームが生理的濃度のマグネシウムイオン存在下で選択的に集合する現象が存在する(Nishikawa and Ohyama, Nucl. Acids Res. 41, 1544-1554, 2013)ことを考慮すれば、散在型の反復配列の上に形成されたヌクレオソームであっても細胞内では互いに近傍に集合しているかもしれない。そこで、空間サイズとDNAの物性に加え、Alu配列上に形成されるヌクレオソームの集合を想定したシミュレーションを行った。その結果、これらのパラメーターを使うことで、2点間距離に関する実験データをかなり高精度に説明できるクロマチンループのモデルを作製できることが明らかになった。
|