研究課題
当該年度ではアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)の構築と精製をおこなった。AAVベクターはEGFP-N-WASP野生型および各種変異体をコードするcDNA,心筋型alpha-actin (Actc1)-mCherry をコードするcDNA,およびN-WASP shRNAをコードするcDNAを挿入した。それぞれ十分なタイターのAAVを精製することができた。発現効率を確認したところ,注入部位に局所的に発現しており,心臓全体に発現することはなかった。このため,過剰発現系においては特にノックダウンを行うことにより心機能の影響を解析することは困難であると考えた。そこで,急遽予め得られていたN-WASP flox ES細胞(129系統)を8細胞期胚とアグリゲーション法によりキメラ胚を作製し,N-WASP floxキメラマウスを作製した。このN-WASP floxキメラマウスは2系統のES細胞クローンより作製し,それぞれのキメラマウスについてCAG-Flpマウスと交配させることにより,Flp-FRT系の組換えを用いてネオマイシン耐性遺伝子を除いた。さらに,心筋特異的Myh6-CreERT2トランスジェニックマウスと交配させたN-WASPヘテロfloxマウス同士をさらに交配させることにより,N-WASP flox ホモマウスを樹立した。このマウスにタモキシフェンを作用させるとCre-LoxP系の組換えにより,心室の心筋細胞において特異的にN-WASP遺伝子が欠損することを確認した。さらに,nebulette KOマウスを共同研究者から得ることができた。上記より,心筋特異的N-WASP cKOマウスとnebulette KOマウスの準備が整った。一方,N-WASP活性の測定のためのFRETバイオセンサーの構築を行い,FRET顕微鏡観察系を整えた。
2: おおむね順調に進展している
本研究計画段階では実験材料の準備が研究期間の大部分を占めると予想していたが,当該年度の実験により,すでに平成28年度までに必要な実験材料が整ったといえる。ただし,過剰発現系の実験では生理学実験を行うことが困難であるため,細胞機能実験を行うことにより代替を考えている。したがって,これを元に本年度以降は余裕をもって研究計画のとおりに実験を行い,場合によっては年度計画以上に解析を進めていくつもりである。
当該年度においては本研究計画の核心となるN-WASP-Nebl複合体の活性の測定を行うため,マウス心臓より当該複合体の精製を行う。十分量の精製ができるように各種カラムワークを行う予定である。さらに,粗精製段階においても複合体に結合しているタンパク質の同定を行い,このタンパク質を発現するAAVベクターの作製とその発現系を確立する。このタンパク質とN-WASP-Nebl複合体の結合がマウス生体内における心肥大の過程でどのように変化するかを免疫沈降法により明らかにする。同様の目的で,精製したN-WASP-Nebl複合体にこのタンパク質を作用させた場合のアクチン重合活性をピレン-アクチンを用いたin vitroアクチン重合アッセイにより明らかにする。さらに,N-WASP FRETバイオセンサーおよびNeblをHeLa細胞に発現させ,N-WASPの活性に同定したタンパク質が抑制的に働くことを生体内においても明らかにする。また,AAV/Actc1-mCherryを発現させたマウスにおいて,心肥大を誘導することにより,Z線からの伸長が促進されることを示す。同様の実験を心筋特異的N-WASP cKOマウスやPI3KおよびAkt阻害剤を作用させたマウスにおいても行う。当該年度では以上の解析を予定しており,N-WASPの活性が心肥大の過程において調節されることや,心筋肥大に必要な筋原線維形成におけるN-WASP活性調節の関与について,原理的な解明を上記方策に基づいて進めていくつもりである。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
Proc. Natl. Acad. Sci. USA
巻: 111 ページ: E2291-2300
doi: 10.1073/pnas.1321574111.
http://life.s.chiba-u.jp/telab/