研究課題/領域番号 |
26440095
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上田 奈津実(石原奈津実) 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60547561)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 細胞骨格 |
研究実績の概要 |
発達期の脳内では神経細胞の分裂と移動、軸索/樹状突起の伸展、シナプス結合の形成などが盛んに起きているが、これらの過程には細胞骨格系の動的制御が不可欠である。一方、神経回路形成が完了した成熟脳でも、学習や記憶形成の過程でシナプスやその基盤構造である樹状突起棘(スパイン)がダイナミックに再編成する。しかし、神経活動依存的なシナプス伝達機能の再編成と共役した細胞骨格系の動的調節の分子メカニズムには不明な点が多い。 当グループでは、ニューロンやグリアで高発現するGTP結合蛋白質セプチン(SEPT1-14)の重合体が、1)アクトミオシン膜骨格の特定の領域に局在し、膜蛋白質の足場ないし拡散障壁として機能すること、2)発生過程では神経突起伸展、成熟後にはシナプス伝達に関与すること、3)神経活動依存的にリモデリングすることなどを示してきた(Neuron 2007, Cytoskeleton 2011, Molecular Brain 2013, Nature Communications 2013および未発表)。セプチンおよび関連分子を欠損または過剰発現する複数のマウスの系統的行動解析の結果、空間学習・記憶を評価する複数のパラダイムにおいて一貫した機能障害を呈する1系統を見出した。の表現型は、空間学習・記憶に関する未知の分子メカニズムの解明への糸口になると期待される。そこで、定量性の高い質量分析手法を用いて海馬プロテオームのgenotype間比較を施行したところ、グルタミン酸受容体サブユニットを含む複数の学習・記憶関連蛋白質に量的異常を認めたため、膜画分のイムノブロットや免疫共沈実験を含めた生化学的検証を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
セプチン結合分子の欠損マウスを作製し、表現型スクリーニングを実施、さらにメカニズム探索を追え、現在、成果の一部を論文として投稿中であるため。
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今後の研究の推進方策 |
1. 学習・記憶関連分子の量的変動の検証 定量性の高い質量分析法(ジメチルラベル法)でセプチン欠損マウスのプロテオームを行い、複数の学習・記憶関連蛋白質に量的異常を検出した。昨年度は記憶関連分子の密集するシナプス後肥厚部(PSD)を生化学的に抽出し、異常を検出した複数の学習・記憶関連蛋白質のPSD画分での変動を精査した。今年度は網羅的解析結果を電子顕微鏡レベルで精査する。具体的には、急速凍結・凍結割断レプリカ標識(SDS-FRL)法を用いた高空間分解能解析を行い、当該分子の局在から変動部位を同定する。
2. 記憶形成におけるセプチンの役割 セプチン欠損マウスの系統的行動解析(自発活動量、痛覚感受性、協調運動/平衡感覚、聴覚性驚愕反応、社会的行動、不安様行動、うつ様行動、空間学習、作業記憶を実施し、空間学習・記憶など18項目)の結果、複数のパラダイムにおいて一貫した学習障害を呈することを見出した。今年度は学習障害の責任領域を明らかにする目的で、ウィルスを用いてセプチンを領域特異的に欠損させ、記憶機能障害が生じるか否かを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は研究費でまかなう予定でいたマウス飼育費に関して、異なる財源からの支払いが確保できたため、次年度以降使用とした。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、マウス飼育のみではなく、動物施設内での実験も予定しており、部屋・機器の使用料の負担が生じる。そのための経費として使用する予定である。
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