研究課題
神経細胞の移動、軸索/樹状突起の形成・伸展、シナプス形成過程には、微小管とアクチン細胞骨格系による動的制御が不可欠である。一方、神経細胞同士の結合が形成され神経回路が出来上がると、神経細胞の形態やシナプス結合は大きく変化せず、細胞骨格系は静的な構造支持装置であるという考えが主流であった。しかしながら近年、シナプス長期増強現象(LTP)に伴いスパインが変化する様相が明らかにされた。この過程では、スパインの形態/機能制御とその協調性が重要であり、シナプス後部の分子構築が、動的なアクチン骨格と学習・記憶関連分子(Vesl-1S、Arc、AMPA受容体の特定サブユニットなど) の発現が神経活動依存的に変化することが報告されている。そこで、スパインにおける「機能と形態の協調的な変化」がどのように制御されているかを明らかにするためには、シナプス内およびシナプス近傍にある細胞骨格のダイナミクスを理解しなければならない。重合性ヌクレオチド結合蛋白質ファミリーSEPT1-14から成るセプチン細胞骨格系も神経系に大量に存在するが、その生理的意義には不明な点が多い。本研究計画では、長期記憶ないしL-LTPの維持における、セプチンの機能探索を実施し、(1)LTPに伴いセプチンが再編成すること(2)定量性の高い質量分析手法で、セプチン欠損マウスの海馬プロテオームを行い、グルタミン酸受容体サブユニットを含む複数の学習・記憶関連蛋白質 に量的異常が認められること(3)一貫した学習障害(歯状回機能異常)を呈することを見出した。今年度は長期記憶ないしL-LTPを維持する構造的基盤を支える細胞骨格系の協調作用の中でセプチン系が果たす役割を生理的コンテクストで理解するため、分子・細胞レベルから個体レベルまでの異なる階層を縦断的、統合的に解析する。
2: おおむね順調に進展している
セプチン結合分子欠損マウスを用いた研究成果を論文としてまとめたため(Nature Communications 2015)。
1. 分子レベル昨年度、当該分子欠損マウスの行動レベル、形態レベルの表現型に繋がる分子メカニズムを解明するため、免疫沈降と質量分析(ショットガン法)を用いてセプチン会合分子の網羅的同定を進めた。今年度は形態的に得られたデータを海馬培養神経ニューロン(in vitroレベル)で再現し、同定した結合分子を遺伝子導入することで分子ネットワークを明らかにする。2. 行動レベルセプチン欠損マウスの系統的行動解析(18項目)の結果、複数のパラダイムにおいて一貫した学習障害(歯状回機能異常)を呈することを見出している。本研究で使用したセプチン欠損マウスは全身性ノックアウトマウスのため、学習障害が歯状回のセプチン欠損の結果生じたかは評価できていない。そこで、セプチン欠損マウスの海馬歯状回において、ウィルスを用いて当該セプチンサブユニットを過剰発現させ、記憶機能障害がレスキューできるかを評価する。さらにin vivo RNAiによる成熟後・急性・海馬歯状回選択的セプチン欠乏マウスを用い空間弁別障害を(少なくとも部分的に)再現するかを評価する。すでに海馬歯状回選択的ウィルス注入の系は立ち上げており問題なく実施できる。
当該年度は研究費で支払い予定としていたマウス飼育費に関して、一部が異なる財源から支払いが確保できたため。
今年度はマウス飼育に加えて、他施設での行動解析も予定しており、飼育費用に加え、実験室・飼育室・機器の使用負担金が生じるため、経費として使用する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
Molecular brain
巻: 9 ページ: 8
10.1186/s13041-016-0189-3.
Nature Communications
巻: 6 ページ: 10090
10.1038/ncomms10090.
F1000Research
巻: 4 ページ: 130
10.12688/f1000research.6386.1. eCollection 2015.