研究実績の概要 |
最終年度では、人の歩行時生理応答について、登山時にみられる高所環境(低酸素条件:吸入酸素濃度13%、対象条件21%酸素濃度)と低温(環境温度13度、対象条件23度)の複合的影響を検討した。歩行実験のデザインは、低速(時速3km程度)から高速(時速6km程度)までの多段階負荷を用いた。その結果、歩行全体におけるエネルギーコストは、全ての条件において顕著な差が認められなかった。しかし、低酸素環境においては、歩行時のエネルギーコストを最小にする経済速度の有意な低下が認められた。一方、低温の影響は皮膚温などの生理指標には影響が認められたものの、経済速度については影響を受けなかった。これらの結果は、前年度実験を裏付けるとともに、更なるエビデンスを与えるものである。すなわち、前年度以前の実験結果では、人が歩行するときの経済速度は、吸入酸素濃度が15%までは歩行時全体のエネルギーコストも経済速度も影響を受けなかったことを報告した(Biology Open, 2016)。最終年度の実験結果、エネルギーコストおよび経済速度は、環境温度の影響は受けないこと、一方、経済速度は吸入酸素濃度が13%程度になると、初めて低下することを明らかにした。 また、研究期間全体を通じて、従来のエネルギーコストの算出方法が、循環応答の面から、低く見積もられており、算出方法自体を見直す必要があることもあきらかにした。この結果は、今後人の歩行時のエネルギーコストを正確に算出する上で有用な知見といえる(Scientific Reports, 2017)。さらに実際の富士登山実験を行い、登山時の歩行エネルギーと心拍数との関連を明らかにした(Biomed Res Int, 2017)。
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