研究課題/領域番号 |
26460308
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
村上 政隆 生理学研究所, 細胞器官研究系, 准教授 (10104275)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 唾液腺 / タイト結合 / 傍細胞輸送 / 血管灌流唾液腺 / 水輸送 / 細胞内信号 / 蛍光物質分泌 / 駆動力 |
研究実績の概要 |
大量に水分分泌を起こす唾液腺はムスカリン刺激による分泌持続期に、傍細胞水輸送が全水分泌の2/3に達する。傍細胞水輸送を可視化するため、血管灌流ラット顎下腺を用い、タイト結合を通過する蛍光色素(Sulforhodamine B, MW=559)の分布を共焦点レーザ顕微鏡で4次元観察した(3D+経時測定)。Wistar/ST系雄性ラット顎下腺を麻酔下(Isoflurane and pentobarbital)で摘出し、排出導管、動脈に挿管し、1.7 mL/minの定流流速で、重炭酸free灌流液を灌流した。灌流腺はリアルタイム共焦点レーザ顕微鏡システム(Zeiss LSM5 Live)のステージに灌流顎下腺をセットし、灌流状態で高速のスライスを実施し、約2秒間隔でz軸方向64枚の2D画像を取り込み、実験後管腔内(細胞間分泌細管内)の色素信号の強度及び運動を計測した。その結果、1 3D画像を回転させ、スライス内に平行なxy面で細胞間隙を観察では、細胞間隙の蛍光色素は不均一に分布しbasal infolding やdesmosomeにより蛍光物質が排除されていた。これらの色素は振動していたが、背景に灌流ポンプの拍動が重畳し、正確な測定が困難なことが判明した。これを克服するために、最も細胞間隙の運動が明瞭なxy面(2D)を切出し、この画像内で最も信号強度の高い血管内の蛍光強度を基準としてポンプの振動を除去し、細胞間隙信号を解析した。その結果、カルバコール刺激開始後15秒間に一過性に強度の減少が観測された。しかし、強度誤差は変化せず運動の変化は示されなかった。2 ポンプによるアーチファクトは2D面ではなく3D観測の必要性を考慮し、人工的に微小な蛍光ビーズを腺内に留置し、ビーズの運動を3Dでトレースし基準点とすることで、ポンプ振動を除去できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1血管灌流唾液線を用いるため、灌流液を駆動するペリスタポンプを使用するが、この拍動がスライス画像に影響したため、2次元画像上で拍動の影響を除去することからはじめた。細胞間隙の画像を効率よく抽出することができず、3次元画像のままで振動を除去できるまでに時間を要した。蛍光ビーズを腺内に固定してこの運動を3次元的に補正する方法を開発したが、これにのべ4ヶ月必要であった。2使用した共焦点レーザ顕微鏡システムは東京歯科大学の稲毛キャンパスから水道橋キャンパスに移動されたが、移動後の設置場所に問題が有り、これを完動させるために9月一杯までかかった。3岡崎での実験は、大学院生の学位審査に向けての追加実験と論文準備のために実験時間が圧迫された。4幸いビーズを用いたアーチファクト除去は年度内に終了でき、装置の再点検を行った結果、途中で装置停止するトラブルが少なくなったため、今後の研究の支障は少ないと予測される。5根本問題はペリスタポンプを灌流液の駆動に用いていることが大きな原因であるため、ビーズ補正による方法以外に灌流駆動を固定静水圧とする方法の検討を開始した。6新たに漢方薬の傍細胞水分泌刺激作用が、微小血流増加と解離する結果が得られたため、これが局所の静水圧の増加と関連し傍細胞輸送を増加させる可能性が開けた。そのため、局所の微小血流を観測する計画も加わった。7さらに、傍細胞輸送の駆動力が微小循環の増加による細胞間分泌細管周囲の細胞間隙の静水圧の増加であり、傍輸送開始はタイト結合部分での透過性の増加として捉えることができるとの方向性が明確になった。
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今後の研究の推進方策 |
1前年度に成功したビーズ法は視野全体の蛍光感度を良くする効果もあり、細胞間隙運動の計測に応用する。2振動を明確にするため、時間分解能を2秒から1秒以下に短くしROIを狭小化させる。そのためには腺の固定化が重要であった。腺固定法を改良し、腺底面以外にも瞬間接着剤を塗布したところ実験中の腺の動きを極力停止させることができた。3灌流系にムスカリン受容体、βアドレナリン受容体など異なる細胞内信号を誘発する分泌刺激薬を添加し刺激初期2分間について当該スライスの高速共焦点顕微鏡にて時間分解の高い動画を撮像し、分泌刺激による細胞膜表面振動の時間、場所、周波数の変化を計測し、分泌刺激時の細胞膜表面の運動を解析する。4Ouabain投与時の細胞膜振動測定: Na/K ATPase阻害剤ouabainを用いるとほぼすべての水分分泌が抑制される (J Physiol, 426:127-143, 1990)。このときNaの流入とK流出するため、細胞の容積は増大すると推測される。Ouabain投与下では能動輸送が阻害され、経細胞輸送も持続されないが、傍細胞輸送は継続していても構わない。しかし、実際には傍細胞輸送も低下し唾液分泌は枯渇する。これは細胞容積が拡大することで、細胞内骨格相互の距離が拡大し、骨格の運動が阻害されるため、細胞膜表面の運動が低下し、傍細胞水分泌が激減するからではないかと予測される。Ouabain投与下で、蛍光色素分泌、腺酸素消費、細胞膜振動を比較し、細胞内骨格の運動がouabainで減少し、傍細胞輸送が抑制されることを検証する。5傍細胞輸送の本態が、微小循環の増加とタイト結合の運動増加による透過性増加と仮定することにより、刺激薬による傍輸送分泌調節実験を減らし、より実態に即した、微小循環駆動力を調節する実験を多く実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験装置の調整が遅れたため、ラットの使用数が予定より少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
実験装置の調整が順調に開始されたためラットの使用匹数が増加し、英文論文作成のための校正料が増額される。 翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画は、1物品費として、ラット、薬品、電顕試料作成消耗品、凍結割断用消耗品、蛍光色素など。2旅費等として、東京歯科大実験調査出張旅費、FAOPSでの成果発表旅費、国内学会成果発表旅費、論文英語校閲、学会登録費など。に使用する計画である。
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