最終年度には、生体の炎症応答における自然免疫様B細胞の役割を検討する目的で、自然免疫様B細胞を持つマウス(野性型マウス)と持たないマウス(IkappaBNS欠損マウス)に低容量のリポ多糖(LPS:炎症性物質)を複数回投与し、炎症性サイトカインの発現と産生を解析した。その結果、IkappaBNS欠損マウスのマクロファージでは野性型マウスのマクロファージよりも炎症性サイトカインであるTNF-αの発現が亢進していた。このとき、野性型マウスの脾臓では抗炎症性サイトカインであるIL-10を産生するB細胞が誘導されていたのに対し、IkappaBNS欠損マウスの脾臓ではIL-10産生B細胞がほとんど存在しなかった。この現象をin vitroで検証した結果、リコンビナントIL-10とLPSで活性化した野性型B細胞はマクロファージのTNF-α発現を抑制したが、LPSで活性化したIkappaBNS欠損B細胞にはそのような作用が明確ではなかった。これらの結果から、1)生体内でのIL-10産生B細胞の誘導には、低容量LPSの複数回投与が有効であることが明らかになった。また、2)末梢B細胞のサブセットの1つである自然免疫様B細胞は、LPSのようなToll様受容体アゴニストの刺激によってIL-10を産生し、マクロファージの炎症応答を抑制することが示唆された。そのため、自然免疫様B細胞は生体の炎症応答制御に重要であると推察される。 研究期間全体を通じて、1)脾臓辺縁帯B細胞や腹腔B-1細胞などの自然免疫様Bリンパ球の分化と活性化には非典型IkappaB分子の1つであるIkappaBNSが重要であること、2)IkappaBNSは自然免疫刺激によるB細胞のIL-10産生に重要であることを明らかにし、3)自然免疫刺激によって誘導したIL-10産生B細胞は炎症応答を抑制することが示唆された。
|