研究課題/領域番号 |
26461132
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
丹野 雅也 札幌医科大学, 医学部, 講師 (00398322)
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研究分担者 |
三木 隆幸 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (00336405)
三浦 哲嗣 札幌医科大学, 医学部, 教授 (90199951)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | GSK-3β / ミトコンドリア透過性遷移孔 |
研究実績の概要 |
GSK-3βによるmPTPの開孔制御の分子機序の解明を目的とした。 (i) 心筋細胞を酸化ストレスに暴露しGSK-3βとの結合が増加する蛋白を、GSK-3β抗体を用いた免疫沈降法ならびに二次元電気泳動法を用いて検索した。酸化ストレスによりGSK-3βとの相互作用が3倍以上増加するゲル上のspotを9つ見出し、LC/MSにより蛋白を同定した。この中にはPhosphatidylinositol 4,5-bisphosphate 5-phosphatase AおよびVoltage dependent anion channel 2(VDAC2)が含まれていた。 (ii) まずはVDAC2に着目して研究を進めた。VDAC2抗体による免疫沈降を行い、GSK-3βとの相互作用が酸化ストレスにより増加するかを確認することを試みたが、入手可能なVDAC2抗体はH9c2細胞を用いた実験ではいずれも非特異的バンドが多数検出されたため、VDAC1, VDAC3には存在せずVDAC2特異的なアミノ酸配列をepitopeとした抗体を家兎を利用して制作した。しかし、異なる2個体を用いて制作したVDAC2抗体でもやはりVDAC2に特異的なバンドは検出されなかったためFLAG標識VDAC2抗体を作成した。抗FLAG抗体による免疫沈降物中のGSK-3βは外因性の過酸化水素により増加し、酸化ストレスに反応してGSK-3βがミトコンドリアに移行し、VDAC2と相互作用することが確認された。siRNA法によりVDAC2の発現を抑制し、H9c2細胞のミトコンドリア分画および細胞質分画におけるGSK-3βの蛋白量をウェスタンブロット法により評価したところ、酸化ストレスによるミトコンドリア分画のGSK-3βの蛋白量増加はVDAC2のノックダウンにより減少していた。 (iii) GSK-3βのミトコンドリア移行制御の臨床応用を念頭に置き、心不全モデル動物の作成に取り組んだ。近年注目され、臨床的にも頻度が高い心腎連関による心不全を想定し、片腎全摘および残存腎の2/3摘除を行った腎不全モデルを作成した。今後心機能の推移を観察、評価予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初設定した実験計画に沿って研究を遂行している。GSK-3β抗体を用いた免疫沈降物を用いた二次元電気泳動により酸化ストレスによりGSK-3βとVDAC2との相互作用が検出された。しかし、この実験結果をより確実に証明するべく計画したウェスタンブロット法を用いた実験では購入可能なVDAC2抗体を3種類入手したがいずれも特異的なバンドを検出できなかった。そこで、VDAC2に特異的なアミノ酸配列をエピトープとして用い、家兎を免疫してVDAC2抗体の作成を試みた。しかし、異なる2個体から得られた抗体がいずれも非特異的なバンドを多く検出し、想定どおりに実験を進めることができなかった。そこで止むを得ずFLAG標識したVDAC2を作成し、酸化ストレス下でVDAC2とGSK-3βの相互作用が増加していることが確認された。 当初は次にVDAC2とGSK-3βの結合部位の同定、GSK-3βのミトコンドリア移行の分子機序を検討する予定であったが、GSK-3βのミトコンドリア移行制御を治療応用するための検討に用いるための心不全モデルの確立を先行させた。これはGSK-3βのミトコンドリア移行の分子機序の同定が不可能であった場合でも、GSK-3βの活性抑制の心不全への治療効果についても検討可能と考えたからである。腎不全モデル作成の際、副腎に極力侵襲を加えないことで死亡率を下げるという技術を会得するまでに一定時間を費やした。 このように実験の各段階で試行錯誤が必要であり、予想より若干遅めの進行であるが、仮説に沿い概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の実験計画は以下の通りである。(i) vdac2とGSK-3βの一連の欠失変異体および点変異体を作成することによりそれぞれの結合部位を同定する。結合部位を同定することにより後述する相補ペプチドを用いた治療への応用が可能となる可能性がある。(ii) 古典的なミトコンドリア移行シグナル(MTS)はN末端の20-30個程度のアミノ酸で塩基性アミノ酸および2、3個の疎水性アミノ酸の繰り返しで構成される配列である(Ohmura et al. J Biochem 1998)。MTS予測アルゴリズム(Guda et al. Bioinformatics 2004)ではGSK-3βがMTSを有する可能性が示唆される。そこで、N末端の塩基性アミノ酸にそれぞれ点変異を挿入し、酸化ストレスによるミトコンドリア移行が抑制されるかを観察する。ここでもMTSが同定されれば、この部位の相補ペプチドが心不全治療へ応用できる可能性がある。(iii) ストレス下でのGSK-3βのミトコンドリア移行を特異的に抑制すればGSK-3βの生理的な機能に影響を与えずに細胞死を抑制できる可能性がある。そこでVDAC2とGSK-3βの結合部位やMTSの相補性ペプチドを設計し (Campbell et al. Microbiol Immunol 2002)、その効果を単離心筋細胞、および作成した心不全モデルへ投与し効果を検討する。in vivoにおける相補ペプチドの細胞内デリバリーに関しては相補ペプチドを発現するプラスミドのトランスフェクションを試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究全体の計画として、実験の遂行、学会での発表、論文への発表を含め、平成26年から平成28年の3年間、ほぼ均等に研究助成が必要となると考えられる。初年度は概ね予定どおりに研究を進めることが可能であった。したがって、必要であった助成金も全体のほぼ3分の1であった。交付決定額は初年度が多めに設定されているため、研究計画に合わせて実際に必要な助成金を使用した結果、必然的に初年度は次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
初年度はGSK-3βとVDAC2の結合部位、および/またはGSK-3βのミトコンドリア移行シグナルを同定し、この部位の相補ペプチドを作成したい。さらには実験が予定どおり順調に進めば、相補ペプチドを発現するプラスミドの作成し、これを心不全モデルの動物に導入して、心不全に与える影響を検討したい。さらに、途中経過をレベルの高い学会で発表したい。このために、細胞培養に関わる諸消耗品、試薬、抗体、相補ペプチド作成の委託費、動物購入費、学会旅費などに使用する予定である。
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