研究実績の概要 |
咳の機序には不明な点が多い。原因や病態とは無関係な非特異的鎮咳を目的とする中枢性鎮咳剤は副作用も多く、また慢性咳嗽患者において無効のことが多い。従って咳嗽のメカニズムを解明し、末梢性にピンポイントに作用するような治療薬を開発することは極めて重要である。本研究は近年増加している胃食道逆流症(GERD)による慢性咳嗽患者の食道粘膜組織における侵害受容器TRPV1の関与、神経原性炎症の存在を調べる。
本研究は学内の倫理委員会の承認を受け、現在症例集積中である。現在までに対象群21例(目標30例)、対照群3例(目標20例)がエントリーされている。コントロールが3名のため対象群との比較はできないが、対象群において、GERD治療(PPI+消化管運動改善薬)後、咳のvisual analogue score (VAS)(49.2mm→29.1mm, p=0.0013), レスター咳問診票(4.4→11.2, p=0.0019)と有意な改善を認め、 GERD問診票であるFスケール総スコア(15.4→11.2, p=0.056),酸逆流スコア(8.36→5.14, p=0.019)もそれぞれ、改善傾向、有意な改善を示した。神経原性炎症の指標であるサブスタンスP(SP)やCGRPについては、喀痰SP濃度は治療前咳VASと正の相関傾向 (r=0.39, p=0.09)を認め、血液中のCGRP濃度は治療前レスター総スコア(r=-0.48, p=0.049)、症状スコア(r=-0.54, p=0.04)と有意な負の相関を認めた。しかしながら治療前後で喀痰SP濃度、喀痰CGRP濃度、血液SP濃度、喀痰CGRP濃度に有意な変化は認めなかった。今後、食道粘膜生検組織のTRPV1の免疫染色像やmRNAの定量結果との関連を検討する。
|