研究課題
神経変性疾患では、疾患ごとに特定の神経細胞が障害されやすいが、その障害がどのようにして空間的に拡がるのかは明らかではない。本研究では、運動障害を呈する神経変性疾患を対象として、神経障害が内因性機能ネットワーク依存性に起こるという仮説を検証する。具体的には、安静時の機能的磁気共鳴画像法 (fMRI)で同定される内因性機能ネットワークの空間分布パターンと、脳萎縮、脳糖代謝低下の空間分布パターンを比較する。結果に基づいて仮説を検証すると共に、新しい診断法やバイオマーカーとしての利用を模索する。平成26年度は、健常者データベース構築を行った。健常被験者20名を対象に3テスラ高磁場MRIを用いて、機能的結合を評価する安静時fMRI、灰白質の脳萎縮を評価するMRI脳構造T1強調画像、脳領域間の解剖学的な結合を評価する40方向拡散強調画像を撮像した。安静時fMRIは、0.1Hz 以下の低周波のゆらぎ成分に着目して解析した。画像解析用計算装置で作動するFSL software (http://www.fmrib.ox.ac.uk/fsl/)を使って、体性運動・感覚情報処理ネットワーク、聴覚などの感覚情報処理ネットワーク、認知課題遂行時に活動が低下するデフォルトモードネットワークなど、複数の内因性機能ネットワークを分離した。MRI脳構造T1強調画像にはfreesurfer software (http://surfer.nmr.mgh.harvard.edu/)を適用して、患者群の灰白質の脳萎縮を評価するための準備を行った。拡散強調画像は、FSL softwareとクラスターコンピュータで解析し、神経路の存在確率を反映する画像 (Pdf; Probability density function)から解剖学的結合を推定した。
2: おおむね順調に進展している
今回計画している安静時fMRI及びMRI拡散強調画像は、従来の方法では撮像に合計30分程度が必要で、患者によっては長時間の安静を保つことが困難な方もある。そこで、最近開発されたMulti-band MRI (Moeller S 他6名 Magn Reson Med 2010)を利用して撮像時間の短縮をはかり、10分以内で撮像する方法を確立した。この撮像時間の短縮は、2年目以降に予定している患者の撮像にあたっての予備的研究として位置づけられ、本研究はここまでおおむね順調に進展していると言える。
アルツハイマー病、前頭側頭型認知症や原発性進行性失語症などの神経変性疾患は、疾患ごとに特徴的な空間分布パターンで、脳萎縮が認められる。この脳萎縮の空間分布パターンについては、健常者の安静時fMRIで同定される内因性機能ネットワークの中に、類似するものがあることが報告されている (Seeley WW 他4名 Neuron 2009, Zhou J 他4名 Neuron 2012)。この結果に対しては、特定の内因性機能ネットワークの脆弱性、そのネットワークへの過剰負荷、あるいはネットワークを介した異常蛋白の伝播など様々な解釈が提案されている。現時点で結論は得られていないが、神経変性疾患の病態を考える上で興味深い。平成27年度以降は、健常者とパーキンソン病患者、認知症を伴うパーキンソン病患者及び多系統萎縮症患者の比較検討を行う。具体的には、患者を対象とした安静時fMRIとMRI脳構造T1強調画像、脳糖代謝画像とMRI拡散強調画像の撮像と解析を行う。安静時fMRIで同定される内因性機能ネットワークの空間分布と、脳萎縮あるいは脳糖代謝低下の空間分布が一致するのであれば、病態に内因性機能ネットワークが何らかの形で関連することも示唆される。結果の解釈にあたって、その内因性機能ネットワークを構成する領域間に解剖学的結合が推定されるかどうかは有用な情報と考えられる。病態への関連としては、特定の内因性機能ネットワークの脆弱性、そのネットワークへの過剰負荷、あるいはネットワークを介した異常蛋白の伝播などが考えられうる。本研究のみではその解釈について結論を得ることはできないが、神経変性疾患の病態理解のために重要な知見と考えられる。
次年度使用額が生じたが、当該年度の所要額の3%程度であり、本研究は予算執行の面でも、ここまでおおむね順調に進展していると言える。
平成27年度以降は、健常者とパーキンソン病患者、認知症を伴うパーキンソン病患者及び多系統萎縮症患者との比較検討の目的で使用を計画している。
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