研究実績の概要 |
本研究では肺動脈肺高血圧症(PAH)病態解明のため、GATA-2の病態への関与について、骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)・単球・マクロファージの役割について研究を進めている。 1)転写因子GATA-2の肺組織への分布と発現の程度について:ヒトPAHの肺組織と、正常肺組織をGATA-2で免疫染色して、その分布と発現の程度を比較した。PAH肺組織、肺胞周辺には細胞浸潤が多数集簇し、これらはGATA-2を強く発現した。正常肺組織にも同様な細胞が散見されたがごくわずかであった。これらの細胞をCD68,サイトケラチンで染色し、これらGATA-2発現細胞はCD68陽性のMDSC・単球・マクロファージ系の細胞であることを確認した。 2)PAH症例における末梢血単核球(PBMC)の各サブセット分画について:PAH症例と健常人の末梢血単核球を分離し、単球、MDSC,各リンパ球サブセットの蛍光標識した表面マーカー(抗CD14,CD3,CD56,CD19,CD27,CD33,CD38,CD43,CD44,CD45RA, CD5, CD11b, CD24, CD69, CD71, CD95, CCR7, CXCR3, CXCR4, CD200R, HLA-DR, IgD, IgM,IgG, IgA抗体)で染色し、各サブセットの割合をPAHと健常人で比較した。MDSC分画は健常人で2%以下で存在している。PAH症例では4-6%程度に増加していることを確認した。 3)MDSCはToll様受容体(TLR)を介して活性化することが知られていた。今回、筆者らはMDSCはTLR1/2 リガンドによりM2マクロファージへ、TLR7/8リガンドによりM1マクロファージへ分化、活性化することを報告した。
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今後の研究の推進方策 |
1)転写因子GATA-2の肺組織への分布と発現の程度について:肺組織のGATA-2発現細胞はCD68陽性細胞でありこれらのエンドセリン発現を確認し細胞の分化の程度や機能を検討。3)マイクロアレイによるGATA2と単球を分化誘導する遺伝子プロファイリングの解析:GATA-2の発現や、MDSCの分化誘導に重要と思われる転写因子、サイトカインの候補遺伝子の選別を行なう。PAH患者の単球をソートしてtranscriptをマイクロアレイにより定量比較し、パスウェイ解析を行ない、マクロファージへの分化により誘導される発現遺伝子群の上流にある転写因子の推定や、GATA-2とそれに関連する遺伝子の推定を行なう。 4)末梢血単球・MDSCのGATA-2過剰発現系、GATA-ノックダウン系の樹立:末梢血単球・MDSCをFACSAriaIIにてソートする。GATA-2過剰発現系、GATA-ノックダウン系におけるエンドセリンの産生能、エンドセリン受容体の発現について定量RT-PCRとFACSにより検討。5)GATA-2を介したエンドセリン遺伝子発現制御機構について:エンドセリン遺伝子はそのプロモーター領域にGATA結合領域が含まれ同領域を含むプロモーター領域をルシフェラーゼプラスミドに組み込む。さらに同プラスミドのGATA結合領域に変異を導入したプラスミドを作成しプロモーター活性を比較。エンドセリン遺伝子の発現制御機構を確認。6)末梢血単球・MDSCのTLRリガンド刺激による炎症反応とマクロファージへの分化:健常人とPAH症例の末梢血単球、MDSCを分離し、TLR2,7,8のリガンドと培養して、マクロファージへの分化を比較検討する。MDSCのGATA-2過剰発現系、GATA-ノックダウン系を使って同様に分化能を検討する。組織障害や線維化に関連する因子を検討する。
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