研究課題
近年、社会問題になっている自殺について、分子遺伝学的手法を用い、攻撃性やうつ・不安に関与する自殺感受性遺伝子を同定し、さらに、ヒト死後脳サンプル・動物モデル・細胞レベルの多角的解析により、人が自殺行動に至る生物学的機序を明らかにする。初年度は自殺者500名と健常コントロール約8000名を用いた自殺の関連解析によって同定した自殺感受性遺伝子候補の一つ、PTCHD3について、その中枢神経系における働きを解明するため、まず自殺者死後脳における蛋白発現変化をウェスタンブロッティング法により行った。抗体特異性の観点から有意なシグナルが得られなかった。そのため年齢による発現量変化をみるため、マウス全脳の発達段階レベルごとのPTCHD3発現量を確認したところ、生後2週に一度ピークを迎え、その後、6か月後と12か月後でも発現量が比較的高いことが明らかになった。さらにこのPTCHD3遺伝子がストレス状況によって脳内でどのような変化を来たすかを調べるために拘束ストレスによるうつ病モデルマウスを作成し、PTCHD3遺伝子mRNA発現変化を前頭葉、扁桃体、海馬の各部位について測定した。結果、前頭葉、海馬において有意差をもってストレス群においてPTCHD3発現量の増加が認められた。PTCHD3が神経細胞の増殖や分化、シナプス形成にどのように影響るかを確認するためにP0マウス海馬から神経前駆細胞を神経スフィア状態で長期継代培養し、遺伝子発現の有無を確認する実験系の立ち上げを行った。現時点で安定した神経前駆細胞の培養が行えるようになった。
2: おおむね順調に進展している
当初予定した研究計画通り、①自殺者死後脳と健常対照群におけるPTCHD3遺伝子の発現比較②ストレスモデルマウスにおけるPTCHD3遺伝子発現変化を確認同定した。また③PTCHD3の分化能、成長発達、可塑性、シナプス形成への影響を見るため、マウス神経前駆細胞の培養系を立ち上げて、現在安定して細胞培養を行えている。またPTCHD3のマウス脳内の発現分布を同定するため、現在効率的なPTCHD3のプローブ作成準備である。
PTCHD3の神経細胞への影響、ストレス下での影響等を確認するために、自然状況下、コルチゾール状況下などの培養環境において、平成27年度に予備的実験として神経系細胞においてPTCHD3遺伝子が発現しているか確認するため、妊娠マウス母獣を購入しP0胎仔マウス脳の海馬を切り出し、N2、B27、抗生剤、EGF入りMedium下で浮遊性ニューロスフィアの状態で長期間継代維持する。その間に、mRNAおよび蛋白を抽出し、PTCHD3の発現レベルを確認する。平成28年度に神経前駆細胞で発現が確認された場合、コーティングしたチャンバーに細胞を接着させた後、siRNAを用いてPTCHD3をノックダウンした上でEGFを除去してニューロン・アストロサイト・オリゴデンドロサイトに分化させ、これらの細胞特異的なマーカーの免疫染色により、PTCHD3が神経前駆細胞からニューロン・アストロサイト・オリゴデンドロサイトへの分化に及ぼす影響を解析する。また、E16-17胎仔マウス脳の海馬からニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトの初代培養を行い、それぞれの細胞においてPTCHD3の発現レベルと細胞内局在を解析する。その後、siRNAによるPTCHD3のノックダウンがそれぞれの細胞に及ぼす形態学的変化を免疫染色により解析する。特にニューロンにおいては、樹状突起・スパイン密度の計測及び各種プレシナプス・ポストシナプスマーカーの免疫染色により更に詳細な解析を行う。
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