TGFβ-SMADシグナルは上皮間葉移行(EMT)や癌幹細胞化をはじめとして癌細胞により高い悪性度を付与する。また、このシグナルは薬剤耐性化にも関与している。しかし、TGFβ-SMADシグナルがtrastuzumabやlapatinibに対する耐性を誘導するかどうかは未だ不明である。 HER2陽性乳癌細胞株をTGFβで持続的に刺激したところ、ある種の細胞株のみが抗HER2薬に対する耐性を獲得した。耐性を獲得しなかった細胞株と比較して、耐性を獲得した細胞株ではSMAD3のリン酸化が強く促進され、幹細胞マーカーであるCD44+CD24-細胞分画の割合が増加していた。さらに、その細胞株ではTGFβ刺激によりmammosphereの形成能も増強していた。上記より、SMAD3が抗HER2薬の耐性化に関与することが示唆されたため、SMAD3の特異的阻害薬であるSIS3でSMAD3の活性化を阻害したところ、CD44+CD24-分画の増加が抑制され、抗HER2薬に対する耐性化も完全に阻止された。術前にpaclitaxelおよびtrastuzumabを投与された症例において、その治療反応性と腫瘍におけるSMAD3の発現を検討したところ 、活性化されたSMAD3と治療抵抗性の相関が示された。Trastuzumab耐性の乳癌細胞株において、SIS3によるtrastuzumab感受性の回復を検討した。すると、SMAD3が活性化された細胞株において、SIS3によってtrastuzumab感受性の回復が認められた。以上より、TGFβ/SMAD3経路は乳癌細胞の抗HER2薬に対する耐性化を誘導することを示した。SMAD3はtrastuzumab耐性化に対する標的分子の候補となりうる。
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