研究課題/領域番号 |
26462177
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
齊藤 邦昭 杏林大学, 医学部, 助教 (50446564)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 神経膠腫 / 悪性転化 / メチル化 / 幹細胞 / IGFBP2 |
研究実績の概要 |
神経膠腫およびその幹細胞のメチル化網羅的解析を行い、神経膠腫の悪性転化に伴いメチル化が部分的に低下する一群を同定した。脱メチル化を来す部位のほとんどは、遺伝子発現に関与しない部位であったが、脱メチル化から遺伝子高発現を引き起こす遺伝子のうち、悪性転化に関与すると思われるものをいくつか同定した。このうちIGFBP2について、神経膠腫検体および神経膠腫細胞株、脳腫瘍幹細胞を用いてメチル化と発現解析を行った。臨床検体では、悪性転化に伴い脱メチル化して発現上昇するものと、メチル化が保たれて発現が抑えられているものに分けられた。脳腫瘍細胞株を脱メチル化処理するとIGFBP2の発現は上昇し、脳腫瘍幹細胞に近いプロファイルとなった。一方、脳腫瘍幹細胞を分化誘導するとIGFBP2の発現は低下した。 脳腫瘍幹細胞の樹立を持続的に行っており、症例を追加してメチル化および遺伝子発現解析を行った。Infinium450Kを用いたメチル化網羅的解析の症例数も追加して、脳腫瘍幹細胞のメチル化プロファイルについてクラスタリングすると、脱メチル型の悪性転化膠芽腫のメチル化プロファイルと幹細胞のメチル化プロファイルが類似していることが確認された。これらの結果から、脱メチルによる悪性転化腫瘍は幹細胞の形質に近いことがわかり、この悪性転化の機序として幹細胞が密接に関与していることが示唆された。 IGFBP2以外の遺伝子に関しても、脱メチル化と悪性転化に関わると思われるものについてメチル化と発現解析のvalidationを行ったものの、メチル化と発現の相関するものはみられなかった。 また、神経膠腫患者血清を収集し、DNAを抽出して腫瘍検体DNAとの比較を試みたが、微量DNAの解析が安定せず信頼性のあるデータは得られていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
神経膠腫患者血清を収集し、DNAの抽出を行ったものの、微量DNAを安定して解析することができず腫瘍検体DNAとの比較が困難であった。今後、Digital PCRによる微量DNAの解析や、pyrosequenceの条件検討により微量DNA解析システム構築に時間を要しており、やや遅れていると判断する。 また、予定していたヒストン修飾の網羅的解析がまだ施行できておらず、メチル化とヒストン修飾の統合解析ができていないことからも、やや遅れていると判断する理由のひとつである。
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今後の研究の推進方策 |
血清中の腫瘍由来DNAの解析については、微量DNAの解析のためにDigital PCRを用いた解析を検討する。また、pyrosequencingにおいても安定した解析が行えるように条件検討を行い、短時間に多数の検体の解析が行えるようなシステムの構築を目指す。 また、神経膠腫細胞株、脳腫瘍幹細胞において、ヒストン修飾プロファイルを網羅的に解析し、ヒストンリジンメチル化マーク(H3K4me3, H3K9me3, H3K27me3)や、アセチル化マーク(H3K27ac)のデータを取得し、メチル化データと比較する。さらには、脳腫瘍幹細胞と臨床検体の比較、悪性転化前後の検体の比較をすることで、神経膠腫の悪性化に関与する特定のヒストン修飾や、エピジェネティックパスウェイの同定を行う。 さらに、腫瘍のエピジェネティックステータスに応じて、メチル化や特定のヒストン修飾を標的とした治療を、個別化療法として開発することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費のうち、生化学実験試薬にかかる費用が予定よりも少なかったために使用額が予定額を下回り、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
引き続き、生化学実験試薬やプラスチック器具、細胞培養試薬購入のために使用する。また、メチル化およびヒストン修飾の網羅的解析のための費用や、データ備蓄用ハードディスク等に使用していく予定である。
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