研究課題
下垂体前葉内において体性幹細胞の一種と考えられているのは下垂体濾胞星細胞と呼ばれている細胞種である。我々は急性脊髄損傷に対する初期段階での脊髄再生治療に、下垂体濾胞星細胞を応用し、非開頭法を用いて採取した下垂体組織を腎被膜下移植しこの下垂体組織を脊損部に移植する緊急手術に応用可能な治療方法を開発する基礎研究を行っている。我々は急性脊髄損傷に対する初期段階での脊髄再生治療に、腎被膜下移植した下垂体濾胞星細胞を脊損部へ移植する実験を行った場合、遺伝性肥満ラットZucker(fa/fa)ではCNTF投与群で成績が不良で、IL-11追加投与群で成績が劇的に改善するのを発見した。本研究の目的は、レプチン抵抗性が脊髄損傷の治療に悪影響を与えるメカニズムの解明とその克服法を開発する基礎的研究である。平成27年度実験計画として、電気生理学的手法を用いる利点をさらに確立していった。濾胞星細胞間のギャップジャンクションの成熟度についての検査にはガラス電極を用いた電気生理学的手法を用いた。これは組織が生のままの状態での検査が可能なため、検査済みの組織片についても続く細胞移植に使用可能な点が、組織の固定、化学的な修飾を必要とする免疫組織細胞化学的な手法よりも有用と考えられるからである。現在までに、この下垂体の電気生理学的手法による機能検査はほぼ確実になってきている。一方、下垂体の摘出組織の阻血によるPhの低下(酸性化)による悪影響の検討には、研究分担者の若林の酸感受性イオンチャンネルの研究で用いているノックアウトマウスを流用して検討に入っている。この件については、2016年10月の日本整形外科学会基礎学術集会(福岡)に発表予定である。
2: おおむね順調に進展している
脊髄損傷モデルの回復の機能的評価を検討している。後肢を中心とした運動能力と持久力の検査としてAccelerating Rotarod Tredmill(7750. Ugo Basil, Italy ラット用4連;ENV-576M Neuroscienc、USA マウス用一連: 酸感受性イオンチャンネルノックアウトマウス用)を用い、後肢の知覚レベルと巧朽動作の検査としてGrid Walking Test(Protocol described by Kunkel-Bagden)に基づいたビデオ記録(使用機器:高感度デジタルカメラWAT-502B; Watec Co, Japan とビデオ記録装置DMR-E500H-S, Panasonic)による後肢の踏み外しのダブルブラインドテストを採用して、後肢の運動及び知覚の機能評価を行っている。現在までの予備実験ではヘミセクショングループ(部分脊損)ではZucker(fa/fa)ラットのCNTF, IL-11同時持続投与群で下垂体濾胞星細胞移植による良好な成績が認められているが、トランスセクショングループ(全脊損)では個体間のデータのばらつきが大きく今後例数を増やしてさらに検討を加えていく予定である。脊髄損傷モデルの回復の組織学的評価としては、予備実験で行ったヘミセクショングループ(部分脊損)ではZucker(fa/fa)ラットのCNTF, IL-11同時持続投与群では移植した下垂体濾胞星細胞によって囲まれた部分に神経軸索再生と思われる像が透過型電子顕微鏡にて確認できた。一方Zucker(fa/fa)ラットのCNTF単独投与群ではグリア瘢痕の形成が顕著だった。今後さらにトレーサーや免疫組織学的な手法を用いた詳細な検討を加えていく予定である。
下垂体細胞塊の腎被膜下移植と浸透圧ポンプを用いた持続投与の方法をさらに追及していく、 Zucker(fa/fa)ラットとコントロールとしてZucker lean(+/+)の各々雄の9週令を用意しネンブタール全身麻酔を施し、手術用顕微鏡視下(OPMI VISU 210, Carl Zeiss S88 series, Germany)で下垂体に口腔側から骨を歯科用ドリルで切除して到達する。下垂体前葉の部分切除後に生理的機能に異常を生じない為に、正中に存在する前葉、中葉、後葉の部分は残して、両側に存在する部分の前葉をする。口蓋骨等に開いた骨孔は光重合型フロアブルレジン(ユニフロー: Tokyo)を用いて塞ぎこれをLED光照射機(キュアノス: Kyoto)を用いて硬化させる。次いで、ラットを伏臥位に固定しなおし、左側の腎臓に背側皮切にて到達し、腎の下局からトンネルを被膜下に上局まで作成する、ここに先に採取しておいた前葉の組織を移植する、腎の被膜に開いた創部には熱メス(コータリーペン: Gemini Cautery Kit, Roboz Surgical Instrument, INC., Maryland, USA)を用いて閉鎖をする。ここに、1μg/mlのIL-11を充填した小型の浸透圧ポンプ(Mini-Osmotic Pump;Model2001:1.0μl per hour,7days: 米国ALZET社製) チューブの先端のスポンゼル部を腎の背側の下垂体細胞塊を挿入した被膜の直上に装着し、8-0ナイロン糸にて周囲結合織に固定する。脊髄損傷モデルへの移植時には、左腎を背側皮切して露出し、腎被膜下に存在する下垂体細胞塊を被膜の一部に割を入れて取り出す。これに電気生理学的検査(ガラス電極刺入)にて細胞間連絡の評価を加え、脊髄損傷部に挿入する。今後さらに症例を増やしていく。
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Mol Psychiatry
巻: 21 ページ: 1613-1623
10.1038/mp.2015.220