研究実績の概要 |
本年度は前年度から引き続いているヒト前立腺生検組織における免疫学的解析と、アクネ菌感染によるマウス前立腺発癌モデルの検討を行った。ヒト前立腺生検組織における免疫組織学的解析では、現在までに癌群44症例、対照群36症例について解析が終了している。解析の結果、アクネ菌の陽性腺管率は対照群に比較して癌群で有意に上昇しており(Mann-Whitney test, p<0.001)、前立腺癌とアクネ菌との関連性が強く示された。本解析結果については現在、論文執筆中である。 またマウスを用いた検討では、麻酔下にて開腹したマウスの前立腺にアクネ菌(ヒト前立腺由来株)を接種し、接種後3日から2週にかけて観察した。摘出した前立腺組織はホルマリン固定パラフィン包埋ブロックを作製して免疫組織学的解析を行った。その結果、抗アクネ菌抗体免疫染色にてアクネ菌を接種した全ての個体で前立腺上皮細胞内にヒト前立腺組織中に観察されるような小型円形顆粒状の陽性像が認められた。対照として生理食塩水を接種した個体においてはいずれもアクネ菌陰性であった。また抗NF-κB抗体を用いて免疫染色を行うとアクネ菌陽性腺管では活性化NF-κBが核内に高頻度に認められた(Fisher’s exact test, p< 0.001)。さらにアクネ菌陽性腺管においては好中球、マクロファージを主体とした炎症反応が認められた(Fisher’s exact test, p< 0.001)。これらの所見はヒト前立腺癌組織中にて認められるものと同様の傾向を示しており、アクネ菌の感染が前立腺癌の発生に与える影響を解析するモデルとなり得ると考えられる。
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