研究課題/領域番号 |
26462706
|
研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
川原 央好 浜松医科大学, 医学部附属病院, 准教授 (20224826)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | gastroesophageal reflux / impedance pH monitoring / gastric emptying / rikkunshito / gastrostomy / neurological impairment |
研究実績の概要 |
重症心身障がい児(重心児)の胃食道逆流症(GERD)の病因となる上部消化管motility異常の解明が本研究の目的である。食道インピーダンスpH(MII-pH)モニタリングによって経管栄養を受けていた重心児の酸性非酸性逆流を後方視的に分析した。酸性/非酸性逆流の回数中央値(範囲)は36(15-96)/6(2-37)、時間率は1.9%(0.5-8.8)/0.2%(0-0.9)と、80%以上は酸性逆流であった。 重心児のGERDと胃のmotility異常の関連性を明らかにするために、六君子湯投与後のMII-pHパラメータの変化を検討した。六君子湯は機能性ディスペプシアに対するセカンドラインの治療薬である漢方薬で、胃受容性弛緩不全と胃排出遅延を改善する作用があるとされている。六君子湯投与により酸逆流時間率(Reflux Index: RI)、酸性逆流回数、酸性近位側逆流の減少がみられた。食道酸クリアランス時間は短縮したが、MII-pH評価による食道クリアランス時間は変化しなかった。本結果から重心児のGERDの病因には食道よりも胃のmotility異常が関与している可能性が示唆された。 胃motility異常の意義を更に検討するために、腹腔鏡補助下胃瘻造設術による酸性非酸性逆流と胃排出能の変化について検討した。術前RI<5%症例では、RIと5分以上及び総逆流回数は増加したが、RI>5%症例ではRI、食道酸クリアランス時間、酸性+非酸性逆流回数が減少し、胃排出が改善した。本結果から酸逆流正常例では胃瘻造設によって胃motilityが低下して酸逆流が増加するが、酸逆流増加例では胃瘻造設による軸捻転解除など胃の形態的変化が排出能などの胃motilityを改善して胃食道逆流を軽減させると考えられた。 これらの結果から、重心児のGERDの病因としての胃motility異常の重要性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
重症心身障がい児(重心児)では胃食道逆流症(GERD)がよくみられ、しばしば児のQOLを低下させる。その病因として、中枢神経、食道、噴門付近の逆流防止機構、及び、胃の異常の可能性が推測されるが、未だ不明な点が多い。研究者はこれまでに重心児において胃食道逆流(GER)発生の生理学的メカニズムがtransient lower esophageal sphincter relaxationというおくびが発生する運動であることを明らかにし、GERが必ずしも噴門付近の逆流防止機能の破綻から起こっているわけではないと考えた。更に、GERの発生を抑止する噴門形成術がおくびの発生を抑制するために、消化管にとって必ずしも生理的な治療となってないことも報告した。 本研究の目的は重心児のGERDの病因としての上部消化管motilityの異常を明らかにすることであるため、2014年度は胃motilityに内科的及び外科的に影響を及ぼす六君子湯と腹腔鏡補助下胃瘻造設術のGERに対する影響について検討した。 動物実験及びヒトで胃motilityに作用することが明らかにされている六君子湯が、重心児でGERを減少させたことは、これらの患者におけるGERDの病因としての胃motility異常の意義を示唆したと考えられる。 更に、胃を腹膜に固定するとともに胃の形態を変えるとともに腹膜に固定して胃運動を障害する胃瘻造設術が、術前の酸逆流の程度に応じてGERに対して相反する結果をもたらしたことは、GERと胃motilityの関連性を強く示唆するものと考えられる。 上記の結果が得られ、重心児のGERDと胃motilityとの関連性についての検討の進捗状況は順調と考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
2014年度の研究成果から、重心児のGERDの病因として胃motilityの異常が重要であることが示された。 本研究の次の課題は、GERDの重心児の食道motilityを詳細に分析することである。従来の食道内圧検査や食道胃pHモニタリングによって得られる食道motilityに関する情報は乏しく、High Resolution ManometryやImpedance Monitoringなど新しい食道運動検査を導入する必要がある。しかし、それらの方法を用いた食道motilityの評価方法は、小児では未だ確立しているとはいえない。2015年度はこのような先進的検査方法を用いた食道motilityの評価方法を確立して、重心児のGERDと食道motilityの関連性の解明にとりかかる予定である。そのために、英文論文から情報を収集するだけではなく、国際学会の場を利用するとともに海外の研究者から直接情報を収集する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では米国消化器病学会に出席して、消化管運動生理学についての最新の情報を収集する予定であった。しかし、勤務施設の診療の都合などから本学会への出席が2,015年度に延期となったため、次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
2015年5月16日-19日にワシントンDCで開催される米国消化器病学会に出席し、上部消化管motilityを中心とする消化管運動生理学についての最新情報を収集するための費用として使用する。
|